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パラリンピックのチカラ File 19 10m先の標的はわずか0.5㎜ さらにその“先”までも狙い定める

佐々木 大輔 (ささき・だいすけ)

1972年6月3日広島市生まれ。障がいクラスはSH1、種目はエアライフル。モルガン・スタンレー・グループ株式会社所属

「ジャカルタ2018アジアパラ競技大会」の佐々木選手。10mエアライフル伏射に出場 撮影:吉村もと

射撃は銃器を使い、制限時間内に決められた弾数で標的を撃ち抜き、精度に応じた得点の合計を競う。技術に加え、どんな局面でも冷静沈着でいられる集中力が勝敗を分ける。

「自分とじっくり向き合える点が魅力」と佐々木大輔選手は話す。対人競技とは異なり、「銃に弾を入れ、狙って撃つ」という単純な動きを、いかに平常心で繰り返せるか、ライバルは自分だ。

ミスは引きずらず、今に集中することが重要で、波に乗ったときは指が勝手に動き、銃がまるで体の一部になった境地になることも。「心の動きが得点に現れる。メンタル7割の競技」と話す。

射撃と出合ったのは6年前。未知の競技だったが、2年も経たずに日本記録をたたき出した。今は東京パラリンピックでのメダル獲得を目指し、不動心を追求する毎日だ。

練習は週5日。東京都内の射撃場のほか、昨年1月からは北区のナショナルトレーニングセンターで、健常の選手たちとも切磋琢磨(せっさたくま)する。充実の環境による成長を実感。コロナ禍による大会延期も味方につけた。

課題は国際大会での過緊張。独特の雰囲気にのまれ、力を発揮できないこともあると明かす。場慣れも必要だが、多くの大会が中止となる現状を受け、新たに香をたいての瞑想(めいそう)なども取り入れた。強みは「へこたれないしぶとさ」。小学生時代から長年取り組んだ柔道で、投げられても起き上がり続けた経験が今に生きる。

11年前には絶望の淵に立っていた。建設業界に就職してから「かけがえのない子どもたちの成長に向き合いたい」と一念発起し、ようやく小学校教諭となって3年目のこと。交通事故に遭い、車いす生活に……。救ってくれたのは教え子からの手紙だった。「先生にしかできないことがあるから、神様が生かしてくれたんだね」

以来、「競技を通じた教育」も人生のテーマになった。目標に挑戦する素晴らしさはもちろん、車いすになってからまちで見知らぬ人に助けられることも増え、「人は多くの支えがあって生きている。思いやりの大切さも伝えたい」と絵本を出版したり、学校で講演活動をしたりと精力的だ。

「プレーで人の心を揺り動かしたい」――照準は定まっている。

射撃

1発のミスも許されない緊張感の中で的を狙う究極のメンタルスポーツ

得点は㎜単位で変わる。クラス分けは銃器を自身の腕だけで保持できる(SH1)か、支持具を使う(SH2)かの2つ。銃器の種類(ライフル、ピストル)、標的までの距離、撃つ姿勢(伏射(ふくしゃ)、膝射(しっしゃ)、立射(りっしゃ))の組み合わせにより多様な種目がある。車いす選手の場合は両肘を台に乗せると伏射、片肘を乗せると膝射、全く乗せないと立射となる。

競技紹介 https://tokyo2020.org/ja/paralympics/sports/shooting/

星野 恭子(ほしの・きょうこ) スポーツライター http://hoshinokyoko.com/

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