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わが社もできるIT化/身の丈ITで生き残れ! vol.24

いきなりのIT化は難しいと考える経営者に対し、山本昌作副社長は「エクセルの活用から始める方法もある」とアドバイス

アルミ切削加工を得意とし、高品質の試作品の超短納期対応を強みとするHILLTOP(ヒルトップ)。超短納期を支えるのは自社開発の多品種単品・24時間無人加工システム「HILLTOP System(ヒルトップシステム)」だ。成功の鍵は、経営者の仕事を楽しくするという強い意志と、現場で働く「職人」の意識改革にあった。

売り上げの8割を失う覚悟で孫請けを脱し知的作業を追求

ヒルトップの副社長・山本昌作さんが、前身の山本精工に入社したのは1977年。「当時は自動車部品の孫請け仕事が売り上げの8割を占める、社員5~6人の零細企業だった」という。

取引先から与えられた工作機械はパラメーターがセットされていて、「触ることさえ許されていなかった」。自社の独自技術は不要だからどの工場でもできる代わりに、仕事は単調でルーティン作業ばかり。人間がやるべき仕事―図面を見てどの機械、どの材料を使うか、バイトの芯高調整に使う敷板は何ミリが適当か……を考える知的作業の余地はほとんどなかった。しかも、毎年のように求められるコスト削減。その中で利益を確保するには残業をして生産量を増やすことしかなく、その先に未来が見えなかった。

そこで山本さんは、当時の社長だった父を説き伏せて「売り上げの8割を占める自動車部品の仕事を全てやめる」ことを決めた。山本さんは兄や弟が持つ旋盤加工技術を頼りに、新規顧客を開拓し単品加工の仕事を受注していった。

「しかし、受注できても、社内には旋盤加工技術しかないので、製品をつくれない場合は近くの単品加工を請け負っている工場に依頼しました。その仕事は赤字です。蓄えがじわじわと消えていきました」

赤字仕事なのだから、せめて職人の技術を学ばせてもらおうと、依頼先の工場に出入りしていたものの、勘に頼った仕事ぶりに驚いた。「例えば(材料を円錐状に先細りに加工する)テーパー加工をするとき、刃物台を少しずつ何度も微調整しては削って測り、また微調整するというように長い時間を掛けて削っていた。三角関数を使えば簡単に求める形に削れるのに」。山本さんは「自社に技術が無くても(数値制御をする)NC工作機械を使えば、他社をぶっちぎって上に出られる」と確信し、苦しい財政の中で、兄と弟にNC機を買う提案をした。

山本さんは職人を否定しているわけではない。時代の変化に対応できない職人気質(にわか職人)に問題があると指摘する。

知的作業は社員の仕事 ルーティンは機械の仕事

人は企画・開発・設計といった知的作業を行い、機械はルーティン作業を行う― 83年、「人」と「機械」の棲み分けを明確にした「24時間稼働の夢工場」をつくるための多品種単品・24時間無人加工システム「ヒルトップシステム」の構築が始まった。まず、職人技をデータベース化しなければならない。ところが、ある製品をつくるとき、「どの刃物を、どの順番で使って、どのような位置から、どれだけの回転数と速さで削るのか」と聞くと、職人によって答えが違う。そこで、それぞれのやり方を擦り合わせて自社の標準データを決めて、社内で共有するようにした。これでリピート注文があったときは、前回と同じ職人でなくても無駄なく短時間で製品を仕上げることができる。

データベース化の手順はこうだ。

①加工作業の細分化と似ている作業をくくって分類

②職人への聞き取りを行い、暗黙知を明らかにする

③職人同士の意見、考え方、ノウハウの擦り合わせ

④自社の標準データを作成・保存・共有し、経験に頼ったやり方を捨てる

⑤作業環境の整理整頓(認識番号を振ってツールと収納場所を関連付ける)

ここで障害となるのが、職人が身に付けた暗黙知の公開だ。苦労して獲得したのに公開してしまっては「損になる」と考える。山本さんは「損になるという気持ちは分かるが、本当は、みんなで技術を共有したほうが得ではないか。一つの技術に縛られることが、あなたにとって得なのか。これから新しい仕事がたくさん来るのに、過去にやった仕事ばかりやりたいのか」と繰り返し説いた。

ヒルトップでは、社員を職人でも作業員でもなく「プログラマー」と呼んでいる。プログラマーは顧客から受け取った平面図面(2D)を立体図面(3D)に変換し、どの部位に、どの刃物を使うかを画面上でクリックするだけでいい。刃物の最適な加工条件はデータベースに入っているので、加工条件を全く知らなくても問題ない。日中はデスクでプログラムをつくり、完成したら機械を稼働させる。機械は社員が帰宅後も稼働し続け、翌日出勤したときには製品が完成している。

同社の顧客は、米国の有名娯楽産業や著名なベンチャー企業、国内のスーパーゼネコンなども含めて約3000社。部品製造の利益率は20~25%(一般的な鉄工所は3~8%)に達している。驚異的な高生産性を生み出すヒルトップだが、山本さんは常に「上げるのは生産性や利益ではなく、社員のモチベーション」と言っている。そのためのツールがITなのである。

会社データ

社名:HILLTOP株式会社

所在地:京都府宇治市大久保町成手1-30

電話:0774-41-2933

HP:https://hilltop21.co.jp/

代表者:山本正範 代表取締役社長

従業員:122人

※月刊石垣2021年4月号に掲載された記事です。

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