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まちの羅針盤 vol.15 コミュニティ・ベイスド・エコノミー創出を

山口県柳井市

航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。今回は、山口県南東部に位置し、商業都市として栄えた柳井市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。

豊富で多様な地域資源

柳井市は、海上交通の要衝として古くから知られ、江戸時代は商業都市として領主吉川家の御納戸(おなんど)と称されるほど繁栄し、白壁のまち並みをはじめ歴史的・文化的蓄積がある。また、大畠町との合併もあって、変化に富む地形と自然景観をも有しており、多様な資源が豊富にある地域である。

当市の地域経済循環(2015年)を見ても、民間消費額が大幅に流入しており、地域資源が多くの来訪者を集め、消費を喚起していることが分かる。コロナ禍の20年6月においても、当市の昼間の滞在人口(15~79歳)は27・8千人とほぼ前年並み(28・2千人)を維持しており、地域資源の集客力の高さを示している。

一方で、強い地域資源を十分に活用できているとは言い難い。LNG(液化天然ガス)発電所があり「電気業」で大幅な移輸出超過(域外から所得の流入)があるものの、域際収支は▲271億円とGRPの2割近い赤字(所得の流出)となっており、「農業」や「食料品」など地域に必要な商材・サービスは域外からの移輸入に依存している。極端に言えば、人を引き付ける自然があるものの、そこで提供されている食事の材料は輸入品ばかりという構造だ。

当市の地域経済は、過去の蓄積による民間消費額の流入と発電所で支えられているが、それゆえ、自ら地域資源を活用して商材やサービスを生み出す動きに立ち遅れが見られるというのが、現状であろう。

コンパクトシティの先へ

柳井市のGRPは、ここ5年間(10→15年)で38億円増加しており、堅調に見える。しかしながら、就業者減に伴う雇用者所得の減少(▲33億円)が地域内ベースの民間消費額の縮小(▲16億円)を招くといった人口減少による負のスパイラルの兆しも見られる。

全国的には、人口減少に対応するため、コンパクトシティ施策が進められているが、当市は、旧柳井市域に人口の半分が居住しており、既にコンパクトである。むしろ、市内各所で維持されているコミュニティー単位で地域経済循環を整えることが、人口減少に伴う諸問題への対応策となろう。この点、ドイツのシュタットベルケが参考となる。地域単位でエネルギーを中心に公共サービス・地域インフラを総合的・包括的に提供する公益事業体であるが、業種横断的かつ地域独占的な運営で収支を成り立たせている点がポイントだ。

また、滞在人口の3割近く(20年6月休日昼間)を占める市外居住者が訪れる場所はどこか、そこで購入している商品・サービスは何か、つぶさに見ていくことも必要である。実は郊外を中心とするコミュニティーこそが、当市経済を支える民間消費額の流入を生み出している可能性が高いのではないか。これらコミュニティーごとの特徴に応じて、全国の先進事例を取り入れ、新たな価値・ビジネスを創出してさらなる経済の好循環を生み出すことも重要だ。この点、歴史的建築物を昔の風情に戻す「七日町通り・修景事業」(福島県会津若松市)や、農産物の直売に始まり農家レストランから農泊まで手掛ける「秋津野ガルテン」(和歌山県田辺市)といった取り組みが参考となろう。

当市には、豊富な強い地域資源がある。それらを集客だけに使うのではなく、自ら活用することで地域に所得が残るようにすること、そうした取り組みを相互に連携させながら進めていくことが、当市ならではの人口減少対策であり、コンパクトシティ施策の基盤となる。

市内各所に点在するコミュニティーの特徴を生かした地域ビジネスを生み出し、それらの点を市街地が中心となってつなげていくこと、それが柳井市の羅針盤である。

(DBJ設備投資研究所経営会計研究室長、前日本商工会議所地域振興部主席調査役・鵜殿裕)

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