滋賀県彦根市で、食器の卸売業としてスタートしたキントー。2006年を境に、ライフスタイルアイテムを中心とした自社ブランド商品の開発に力を入れ、10年から欧州、アジア、北米、中東などへの商品展開を始める。中でも、デザイン性と機能性を兼ね備えたタンブラーシリーズは、男女を問わず大きな反響を呼び、好調な売れ行きを維持している。
「KINTO」ブランドで初の真空ステンレスタンブラー
エコへの関心や節約意識の高まりにより、マイボトルを持ち歩く人が増えている。市場にはすでにさまざまな形状、デザインのボトルが存在している中、多くのユーザーから熱い支持を受けて売れ続けているのが、テーブルウエアやインテリア雑貨の企画開発と販売を行うキントーが発売したタンブラーシリーズだ。
その第一弾となる「トラベルタンブラー」は、武骨ささえ感じさせるデザインながら、コーヒーや紅茶などドリンク本来の風味が楽しめるように綿密に設計されている。さらに、飲み口にねじなどの突起がない優しい口当たりや、氷や熱い飲み物が勢いよく出ることを防ぐ構造など、とことんユーザー本位につくられている。
「開発する際に市場の商品をリサーチしましたが、国内ブランドは、子ども向けの遠足用やスポーツ用か、女性向けのファンシーなものがほとんど。一方、海外ブランドはデザインが洗練されていても、機能性が低かったり。デザインと機能性を両立させたボトルを目指しました」と同社取締役の小出慎平さんは説明する。
食器の卸売業からスタートした同社が、ライフスタイルアイテムを中心とした自社ブランド商品の開発に力を入れるようになったのは、2006年からだ。それまでは室内用途のテーブルウエアを主に扱う一方、OEMも請け負って売り上げを伸ばしていた。しかし、次第にテーブルウエアの枠に留まるのではなく、ライフスタイル全般に目を向けた商品やサービスを展開したいと考え、「KINTO」ブランドの商品カテゴリーの拡大に乗り出す。日々の生活に寄り添うアイテムを次々に生み出す中、初の真空ステンレスタンブラーとして企画したのがこのタンブラーシリーズだ。
「佇まい」と「使い心地」を追求してオンリーワンを目指す
商品の開発に当たって同社が掲げるコンセプトは、デザインやファッション性=「佇(たたず)まい」と機能性=「使い心地」を兼ね備えていることだ。そこでデザイン面では、素材感や色、触り心地がチープにならないように心掛け、ファッションの一部として違和感なく持ち歩けるような外見を意識した。機能面では、グラスやマグカップのような飲み心地を再現するために、飲み口の厚みや口当たりの良さを追求した。
「特に飲み口の部分は苦労しました。口当たりはもちろんですが、熱いドリンクを入れた際、どれくらいの勢いで出てくるかが大きなポイントです。ちょっとしたところで飲み心地が変わってくるので、何度も試作して検証しました」
ほかにもコンパクトで軽量を実現するために、保温・保冷効果を維持しながらステンレスの二層構造をできるだけ小さくするなど、細部まで工夫を凝らし、ようやく納得のいくものが完成。17年の初夏に販売を開始するや、好調な売れ行きを示した。
同社の営業スタイルは独特だ。いわゆる〝売り込み〟は行わず、展示会とWEBを通して商品を紹介し、個々に利用シーンをイメージしてもらってファンを増やしていくという戦略を取っている。展示会は同社の東京ショールームで年2回行っており、既存の顧客に商品を紹介する機会と位置付けている。WEBもまたしかりだ。
「タンブラーに限らずほかの商品もそうなんですが、私たちは『佇まい』と『使い心地』を追求した『KINTO』ブランドのコンセプトに合致したものをつくって発信し、『これ、いいよね』『ほかにはないよね』と思ってくれる人を増やすことに重きを置いています。商品を気に入ってくれたのがバイヤーや販売店の人なら販路が広がるし、ユーザーなら売れ行きはおのずと伸びていくので、目先の売り上げを考えないようにしています」
コラボ商品やパーソナライズサービスが売れ行きを後押し
こうした方針に加え、同商品はそれまでの商品ラインナップと比べてコラボ商品がつくりやすい点も売れ行きを後押ししている。得意先であるアパレル・コーヒーショップ・インテリアショップなどのニーズに応えて、得意先のロゴとKINTOのロゴをプリントした「ダブルネーム」のコラボ商品を手掛けたことで、新規販路や商品認知拡大につながった。
その後、さまざまな利用シーンを想定した商品、例えば真空二重構造で、温度や風味を長く保ち、握りやすく丸みのあるハンドルで持ち運びやすい「デイオフタンブラー」といったシリーズを増やしていく。19年には、それらに好みの文字やマークを入れてパーソナライズできるサービス「MARK IT BY KINTO」を始めた。「自分だけのタンブラーが欲しい」というユーザーのニーズやギフト需要に応えたものだ。商品だけでなく、こうした同社の取り組みは多くの人の心をつかみ、現在、シリーズ全体の累計販売数は約270万個を数えるまでになっている。
「物質的な豊かさや利便性については、多くがすでに満たされています。昨年から続くコロナの影響もあり、一人一人が自分にとっての幸せに向き合うことが重要な世の中だと感じます。今後も商品を通じて、最適なライフスタイルや、心が満たされる瞬間に気付くお手伝いをしていきたいですね」
会社データ
社名:株式会社キントー
所在地:滋賀県彦根市小泉町78-30
電話:0749-22-7971
代表者:小出美樹 代表取締役
設立:1972年
従業員:86人(契約社員・パート含む)
【彦根商工会議所】
※月刊石垣2021年8月号に掲載された記事です。
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