わが社もできるIT化/身の丈ITで生き残れ! vol.28

甲斐武彦代表取締役は「全ての項目で同時に100%のデジタル化を目指さず、1項目ずつ100%を目指すといい」とアドバイスする

社内のキーパーソンにIT推進の権限を委譲

ネオマルスは社内の課題である錯綜(さくそう)するメールの整理と情報共有、社外の課題であるパートナー企業の業務効率向上をIT化によって解決した。成功の背景には、社内のキーパーソンにIT化の権限を委譲する、自社開発のシステムを外部に無料開放するという経営者の決断があった。

スモールスタートで支持者を広げる

1991年創業のネオマルス(大分県大分市)は電気通信工事業、人材事業、IT推進事業の3事業を展開する。主力の電気通信工事は、90年代後半から本格化したデジタル化の波に乗って急成長を遂げていた。

IT化の取り組みを始めた2003年の従業員数はわずか12人。それが5年後の08年には102人に増えた。創業者で代表取締役を務める甲斐武彦さんは、当時をこう振り返る。

「初期の頃は社内の連絡も社外とのやりとりもメールで行っていたため、社員が増えて情報量が多くなると整理が追いつかなくなりました」

そこで甲斐さんは社内に向けて、新たなシステムの導入を宣言、業務センター長にデジタル化推進担当取締役(現常務取締役の岡田百代さん)を選任して、導入に関する権限を委譲した。経営者の〝鶴の一声〟で一斉導入というやり方は避けた。

社内の反応は、「この忙しいときに何を言っているのですか」と〝冷ややか〟なものだったが、岡田さんは繰り返しメリットを説き、課題を抱えている部署へは現場目線で選んだ複数のITツールを示して、使う側の判断で選べるようにした。自発的に選んだツールであれば責任を持って使うようになるからだ。岡田さんの意図を理解してITツールを使う従業員が現れると、やがてその横の人、前の人、後ろの人というように利用者が増えていった。こうしてスモールスタートで始まったIT化が全社内に広がった。

08年11月、サイボウズ社のクラウドベースのグループウェア「サイボウズ」とグーグルのビジネス向けアプリケーション「G Suite(現Google Workspace)」が正式に導入された。社内メールはサイボウズのメッセージ機能に集約、社内の稟議(りんぎ)・決裁をサイボウズのワークフロー機能で対応、各プロジェクトの情報や社内文書などはファイル管理機能で一括管理した。社外メールはG Suiteを活用した。自社でシステムをつくることもできたが、「それでは更新や保守メンテナンスを自社でやらなければならなくなる。クラウドベースの既存のサービスを使えば、社内のリソースを本業に振り向けることができます」と甲斐さん。

導入効果は絶大だった。サイボウズで最も効果が高かったのは決裁時間の短縮。決裁者が出張していると3営業日ほど要することもあったが、導入後は半日で決裁ができるようになった。

コロナ禍以前から使っているG Suiteのオンライン会議機能「Meet」は、社内会議に変化が現れた。

「オンライン会議でもチャットもそうなのですが、誰が言っているのかではなく、何を言っているのかが重視されるようになりました」と甲斐さん。上司や声の大きい人の意見ではなく、正しいことを的確な日本語で伝える人の意見が通りやすくなったというわけだ。

とはいえ、既存のサービスでは自社の業務に合わない部分が出てくるのではないか。そんな疑問に対し甲斐さんは、「既存のサービスはカスタマイズができる範囲が狭いとはいえ、一般的な作業の80%、90%はできます。残りの部分は、自分たちがサービスに合わせて形態変化すれば使えるようになる」と答える。形態変化を拒んで利益を生まない部分にコストをかけるか、既存サービスに合わせて社内のやり方を変えるかの選択である。

目先の費用対効果にとらわれない決断

ネオマルスは、主力事業に関係するパートナー(下請け企業)のIT化をも支援している。同社は約600社3000人が登録する独自の電気通信工事の全国ネットワーク「uRAt(ユーラット)」を展開しており、各社が受注した工事の状況をリアルタイムに把握できる工事進捗(しんちょく)管理システム「Stella(ステラ)」を稼働させている。

Stellaの導入前は工事業者への発注、工事仕様の指示、工事完了報告などはメールや電話、ファックスで行っていたため時間のロスやミスが生じやすかったが、新しい管理システムによって劇的に減った。そして12年10月、社内サーバーからアマゾンのクラウドサーバー「AWS」へ移行させたことで、運用の安定性やセキュリティーに対する外部からの信用が格段に向上した。

「私たちがセキュリティーにかけていた工数をAWSが代行してくれるので、その工数を他の開発に向けることができるようになりました」

コストがかかっているシステムだが、「全てのパートナー企業が使うからこそIT化の意味がある」という判断から、パートナー企業には無料で開放。さらに、あらゆる業種で使える「Stella for Salesforce」(月額約15万円)の提供も始めた。

このように経営者の判断で目先の費用対効果ではなく、長期的、総合的な利益や顧客満足を優先させることができる点は、中小企業の強みだ。「中小企業こそDXを進めるべきです」。甲斐さんの言葉には重みがある。

会社データ

社名:株式会社ネオマルス

所在地:大分県大分市都町2-1-10 ウォーカービル8F

電話:097-573-3131

HP:https://www.neomars.co.jp/

代表者:甲斐武彦 代表取締役

従業員:289人(契約社員など含む)

【大分商工会議所】

※月刊石垣2021年8月号に掲載された記事です。

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