わが社もできるIT化/身の丈ITで生き残れ! vol.29 株式会社パスカル

どの業界でもIT導入、DX化は急務の状況にあり、「今すぐ自社の現状を把握して進めないと取り残されることになる」と井上隆代表取締役

長野県佐久市に本社を置くパスカルは、ソフトウェア開発を通じて製造工場の生産性や効率性を向上させるソリューションを提供している。2015年には農業分野にも進出し、農業クラウドシステム「アグレンジャー」の販売を開始した。その背景には、日本の農業が抱える課題を解決したいという強い思いがあった。

農作業の省力化と生産性向上を両立

「なんと効率の悪い作業をしているのだろう」。パスカル代表取締役の井上隆さんは、農作業の手伝いをしていつもそう感じていた。

「私の義理の両親が、果樹園と水田を持っていて時折農作業を手伝っていたのですが、そのたびに作業効率の悪さと負担の大きさを感じ、ITの力で改善する方法はないかと常に考えていました」

2000年代に入ると、安価な中国産野菜の輸入量が激増して、県内の農家にも影響を与えるようになる。

「そんな時、中国産野菜の残留農薬問題が起こりました。安全な農作物を安定して供給するためには、国内農業の生産効率を向上させ、価格を抑え、自給率を高めなければならない。農作業の負担軽減と農業の生産効率の改善|それが『アグレンジャー』開発に取り組んだ理由です」

とはいえ、同社には農業に関するノウハウがない。そこでシステム開発に生かすため15年7月、ITファーム研究所(自前の植物工場)を設定し、レタスをはじめ、エディブルフラワー(食用花)、大葉、パセリなどの栽培に挑戦。温度・湿度・照度・CO2濃度、肥料(溶液)に関するデータを収集・蓄積し、「アグレンジャー」開発に反映させた。

15年10月、アグレンジャーの販売が始まった。主な機能は二つ。圃場(ほじょう)環境モニタリングシステムと営農日誌・生産計画機能だ。

圃場環境モニタリングシステムでは、圃場にセンサーを設置して温度・湿度・照度・CO2濃度や、土壌水分、土壌養分濃度などを計測。そのデータはスマートフォンやタブレット、パソコンなどを使って確認できるため、見回り作業の省力化が図れる。

また、設定した上限値/下限値から外れると警告メールが送信されるため、「ボイラーなどの燃料切れ」といったトラブルを早期に発見できる。ある農家では、冬場の夜間にアラートメールが届いたことから確認に行ったところ、暖房の燃料が切れていることが分かり、作物が凍(し)みてしまうことを回避できたという。

生産計画から日々の作業管理、収穫・出荷の記録、労務管理ができる営農日誌・生産計画機能も好評だ。特に喜ばれているのは営農日誌を音声で入力できる機能を持たせたところ。「農家の方は1日の終わりに必ず営農日誌を付けて、翌年の農作業の参考にしているのですが、『アグレンジャー』の営農日誌は作業の実績を音声入力で記録できるため、入力作業が簡単な上に圃場にいても付けられます。作付けの年間計画の作成、作物ごとの作業計画の作成や進捗(しんちょく)管理などができるので、経験や勘に頼らない営農が可能になります」。このような農家に寄り添った工夫により作物を育てるという本来の仕事に時間を使えるようになる。

現在、同社が開発しているのは、スマホを使って農業用ハウスのカーテンを上下させるシステム。「アグレンジャー」に環境設定しておけば自動で上げ下げするため、省力化につながる。「既存のシステムは、高価格なため大規模農家でなければ費用対効果が見合わなかった。当社では個人農家さんのような小規模農家に向けて手頃な価格で提供するつもりです」

20年11月からは、新規就農支援プラットフォーム「アグティー」の提供を開始した。これは困りごとを抱えている農業者がアドバイザーであるプロ農家に対価を支払って、ビデオ通話やチャットを通じて相談できるサービス。手軽にプロの知恵を借りることができるので、失敗を未然に防ぐ効果が期待できそうだ。

センサー技術を活用して最高品質の日本酒を醸造

同社は18年9月、「アグレンジャー」のセンサー技術を活用した酒造メーカー向け商品「ラクーラ」を発売した。センサーを使って麹(こうじ)ともろみの品温をリアルタイムで確認でき、他の品質データと合わせて一元管理できる。「このシステムを導入することで、作業者の労働環境が改善されるだけでなく、熟練杜氏(とうじ)や蔵人による経験と勘が見える化され、技術継承にも役立つ」。事実、「ラクーラ」を導入した諏訪御湖鶴(みこつる)酒造場(長野県)の「御湖鶴 純米吟醸 山恵錦」は、ロンドンで6月に開催された世界最高峰の日本酒コンクール「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」(IWC)SAKE純米吟醸部門で、ゴールドメダル、純米吟醸トロフィー、さらにエントリーされた全ての酒のトップである「チャンピオン・サケ」を受賞したのだ。

小規模ゆえの生産性の低さを指摘される農業、経験や勘に頼りがちな醸造の分野でもIT化は有効なのである。

わが社ができたIT化への取り組み

IT化前の問題

・農作業の効率が悪く、作業者の負担も大きい

・生産性が低く、輸入品に比べると価格が高い

導入したITシステム

・アグレンジャー→圃場環境をモニタリングするシステム

・アグティー→新規就農者がプロ農家のノウハウを継承

IT化後の状況

・最適な圃場環境の実現により品質や生産性が向上

・現場へ行かなくても圃場環境を把握でき負担軽減

・トラブル発生時のアラートメールにより深刻な事態を回避

会社データ

社名:株式会社パスカル

所在地:長野県佐久市猿久保881-8

電話:0267-66-1991

HP:https://www.pascal.ne.jp/

代表者:井上隆 代表取締役

従業員:91人

【佐久商工会議所】

※月刊石垣2021年9月号に掲載された記事です。

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