わが社もできるIT化/身の丈ITで生き残れ! vol.30 H.Kグループ

進藤彰会長は地元の農業活性化にも熱心で、若手農業グループと手を組み「互いが足りない分野を補う」集合体として「コネクト」を結成して活動している

野菜・果樹・花卉(かき)といった園芸作物の露地栽培は、自然環境の影響を強く受けたり、作物の生育時季に合わせて作付けしたりするため栽培管理が難しいという課題がある。H.Kグループに属する農業法人の葉月は、環境制御装置を備えた農業ハウスを建築することで課題を克服した。

顧客と社員を守るため前例のない計画を推進

愛媛県宇和島市に本社を置くH.Kグループは、冠婚葬祭の生花装飾部門の華月(かげつ)、花卉や野菜の生産部門の葉月(はづき)、仲卸・販売・物流部門の千華(せんか)から成る企業グループ。農業生産法人の葉月は同市の約9500㎡の用地に、IT機器によって育成環境を制御する農業ハウス(ITハウス)2棟と育苗棟および加工施設など総工費約3億5000万円で建設し、商標登録したブランド菊「菊媛(きくひめ)」を栽培している。グループ会長の進藤(しんとう)彰さんは、「いずれ10棟建設する計画ですが、5棟に達した段階で総生産量は250万本を超えます」と生産計画を話す。

ITハウス建設の目的は、菊を自社生産することによる調達コストの低減だ。グループの中核となる華月では、冠婚葬祭に生花を大量に使う。特に葬儀では菊が中心になるため、進藤さんは2017年5月、葉月を設立した。このときの課題は、大量生産と安定収穫だった。

「農業は人件費や肥料といったコストが相当かかるので、少量生産ではもうかりません。大量生産が前提なのですが、安定的に収穫できなければ華月で使う量が確保できないし、県内外に出荷することができません」

進藤さんは、課題を解決するためにはITハウスでの栽培が必須と結論づけた。だが、ITハウスでの花卉栽培は県内初の試みだった。しかも、近年目立って増えている豪雨や強風にも耐えるよう、ハウスの骨組みを軽量鉄骨とし標準設計の2倍の強度を持たせる計画を立てたため、建築確認を担当する県や市の担当者からは前例がないと指摘され、周囲からは無駄な投資といさめられたりもした。

「ハウスが被災して生産が止まると、顧客にも社員にも迷惑が掛かります。その責任は自分が取ることになるのだから納得のいくものにしたかった」

ハウスは施設園芸に実績のある松山市の垣本商事、IT設備は農業クラウドサービスを提供するネポンを選んだ。決め手は「面談」にあったと進藤さんは振り返る。

「多くの人からハウスについての話を聞き、情報を収集して、気になる会社が見つかると飛んでいって、担当者と直接話をする。そうやって、私の理想に近い会社を選び、チームに加わってもらいました」

だが、IT機器というハードを導入しただけでは品質の良い菊は生産できない。

「段取りをして目利きをするのは人の仕事となるので、ソフトの部分となる育成技術のノウハウが必要です。そこで、3人の役職者を1人1年ずつ提携している産地の生産者組合へ研修に出しました。そこではノートをとらず、ノウハウを体で覚えてほしいと指示しました」

異常気象時でも遠隔操作で環境と安全を守る

ITハウス内は、最先端の製造工場のようだ。温度・湿度・日射量・CO2濃度などの環境データを測定する各種機器の稼働状況は、リアルタイムにスマートフォンやタブレットでモニタリングできる。温度に変化があれば、遠隔で天窓や側窓、カーテンを開閉したり、暖房機を稼働させたりして適温を保つ。生産に携わる社員の負担は大幅に軽減される上、異常気象時に現場の確認に出向く必要がないので、社員の安全も守れる。

こうして19年4月の起工式から1年が経過した20年6月、初の商品となる菊の切り取りが始まった。多少の障害はあったものの、初年度からほぼ予定通り。しかも1作ごとに品質が安定し、秀品率(収穫量に占める秀品の割合)は90%を超えた。人件費も3分の1に抑えることができた。通常、2ハウスでは10~15人の人手が必要になるが、ITハウスは半分以下の5人だ。

ITハウスを活用したスマート農業を推進することは、宇和島市の農業振興の貢献につながると、進藤さんは期待している。

「地元の中高校生の農業のイメージは『きつい・汚れる・大変』です。ところが、当社のITハウスを見学してもらうと、みんな驚き、農業の見方が変わります。また、障がいのある人の働く場にもなっています。体に負担がかかる多くの工程をITに任せ、ほとんどの操作が遠隔でできるので、障がいがあっても働くことができるのです」

同社が先陣を切った農業のIT化は、若年層から高齢者までの幅広い層の雇用を可能にする。農業従事者の高齢化、後継者不足という地域の、そして全国の課題解決に貢献するだろう。

わが社ができたIT化への取り組み

IT化前の問題

・農業に関するノウハウがない

・農業の担い手がいない

導入したITシステム

・農業ハウス→標準の2倍の強度を持つ軽量鉄骨で異常気象に耐える

・ネポンのクラウドシステム→育成環境のモニタリングと遠隔操作による各種作業

IT化後の状況

・農業経験が浅くてもIT機器の数値を分析することにより最適な環境をつくり出せる

・農業を敬遠する若年層、高齢者、未経験者、障がい者の雇用が期待できる

会社データ

社名:H.Kグループ(株式会社華月・株式会社葉月・株式会社千華)

所在地:愛媛県宇和島市築地町2-403

電話:0895-25-1687

HP:https://kagetsu-group.jp/

代表者:進藤彰 代表取締役会長

従業員:グループで15人

【宇和島商工会議所】

※月刊石垣2021年10月号に掲載された記事です。

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