まちの羅針盤 vol.20 地域経営の司令塔を

長野県佐久市

航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。今回は、信州の四つの平(たいら=盆地)の一つである佐久平の中心都市で、群馬県との県境に位置する佐久市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。

続く人口の社会増

佐久市は、中山道と佐久甲州街道の交点にあり、古くは宿場町として栄え、近年は上信越自動車道や北陸新幹線の開通に伴う大型商業施設の開発などで発展してきた。もとより人流・物流の要衝で、インフラ整備で人がとどまるようになったのだ。人口は2010年にピーク(10万552人)を迎えたが、その後の減少は緩やかだ。自然減は拡大しているが、転入者が転出者を上回る社会増が続いているためで、長野県での人口順位は20年国勢調査(速報値)で5位から4位に浮上している。

社会増による人口の下支えがいつまで続くか。転入元となる近隣自治体では、人口転出余力も乏しくなり、対策にも力を入れている。佐久市も自然減に対応するため少子化対策に注力するが、効果が現れるまで十数年はかかる。

大事なことは、それまで現在の地域経済規模を維持すること、当面は避けられない人口減少に耐え得る地域経済を構築することで、人がとどまりたくなる魅力を磨き上げ、十数年後の将来市民に引き継ぐことだ。

佐久市の地域経済はどうか。経済循環(15年)を見ると、公共インフラ整備のためもあり分配「財政移転」で多額の所得流入が発生、観光消費の取り込みなどで支出「民間消費」でも所得が流入している。ただ、生活に必要なサービス・商材は移輸入に頼っており、支出「域際収支」では▲1039億円ものマイナス(所得流出)を計上、地域に所得が残りづらい構造となっている。

分配「利益移転」での所得流出が少なく、地域企業が多いと考えられるが、四方の山が域外企業の進出を防いだものの、一方、支出「域際収支」で大きく鞘を抜かれている構造でもある。

いずれにせよ、地域企業の収益性(労働生産性)は高まらず、市民1人当たり雇用者所得は189万円と全国平均と比べ34万円も低くなっている。

経済循環の再構築こそ人口減少対策

稼ぐ力が弱い地域に、今後も転入者が現れ続けるであろうか。地方創生において関係人口の創出がうたわれているが、移住定住や二拠点居住を決める条件として最低限の地域経済基盤は必要であろう。

佐久市にはGRPの1割を超える民間消費額の流入があり、相応の観光需要があるものの、産業としての育成が図られておらず、飲食業の労働生産性は、隣接する軽井沢町に比べて5割の水準(経済センサス16年)で、地域産品の活用による付加価値向上の余地がある。自然環境の利点もあって集まり、域外から所得を獲得している製造業も、労働生産性は長野県平均の9割以下で、クラスター化の促進などによる企業収益および雇用者所得の拡大が可能だ。そして、これら経済基盤を持続可能なものとする取り組み(地域産品の活用、地域企業の課題解決・育成など)は、地域資源の磨き上げそのものでもある。

佐久市としては、これまで人流・物流の厚みといった地域固有の強みを頼りに発展、人口増に対応するよう生活インフラ・サービスの量的充実に専念してきたため、地域の強みを稼ぐ力に昇華する取り組みには、遅れがあるのが実情であろう。

今後は、人口減少が進む中、地域が目指す方向を官民問わず地域全体で共有し、お互いに役割を分担・補完しながら限られたリソースを有効に使い、将来市民に残したい地域経済構造の実現に取り組むことが求められる。同市においては、まず、そのためのベクトル合わせを行う仕組みが必要だ。

地域経済循環の再構築に向け、地域経営のための官民によるマネジメントスキームを構築すること、これが佐久市のまちの羅針盤である。

(株式会社日本経済研究所地域本部副本部長・鵜殿裕)

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