まちの羅針盤 vol.19 高知の仕組みを域外に

高知市の地域経済循環図

高知県高知市

航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。今回は、森林が総面積の8割を超える高知県の県庁所在地で、四国太平洋側の中心都市として発展してきた高知市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。

厳しい自然環境

瀬戸内海から高知市へ行くためには、急峻な四国山地を縦断する必要があり、わずか50㌔㍍の高速道路の間に、上り22本、下り19本ものトンネルがある。隣接する南国市に高知空港があるが、交通アクセスに恵まれているとはいえず、道路か海運に頼る物流のコストは改善することも難しく、一般に地方都市の経済を支える製造業も、同市では域内総生産の1割の規模にとどまっている(全国平均は3割弱)。

このため、地域で販売などしている商品は域外からの移輸入に頼っており、第2次産業の純移輸出入収支額は▲3413億円もの赤字(所得流出)となっている。

同市の地域経済循環図を見ても、分配段階で地方交付税交付金などの財政移転により所得が流入しているが、支出段階の域際収支(地域の貿易収支など)で第2次産業の移輸入超過により所得が流出(域際赤字)しており、地域に所得が残りにくい構造となっている。

こうした悪条件にもかかわらず、同市の稼ぐ力は悪くない。地域の労働生産性(従業者1人当たり付加価値額)を底上げすることが多い製造業は512万円と全国平均の約半分にとどまるが、同市就業者の8割を占める第3次産業が867万円と全国平均に迫る好水準にあり、全産業ベースでも795万円と健闘している。

力強いサービス業

多くの地方都市で地域から所得が流出する第3次産業が、高知市で強い理由はなぜか。

県としては過疎のイメージがある高知だが、県民70万人の5割弱、32万人強が集まる同市の人口密度は1平方㌔㍍当たり1058人と千人を超え、群馬県前橋市や鹿児島県鹿児島市などと同水準である(2020年国勢調査)。厳しい自然が同市における都市機能の集約を促し、第3次産業の基盤を構築しているのだ。この姿は、水不足などの制約から工業開発を諦め、それ故に商業都市として発展を続ける福岡市と重なって見える。

産業の稼ぐ力が強ければ所得水準も高くなる。第1次・第2次産業の1人当たり雇用者所得は県平均をも下回るが、第3次産業は483万円と県平均のみならず全国平均も上回っている。同市の場合、地域企業が多く、稼ぐ力がそのまま雇用者所得の水準につながることも、この結果の要因であろう。

また、地域で集積している産業は、域外から所得を獲得できる。第2次産業の純移輸出収支額は赤字だが、第3次産業は2224億円もの黒字を獲得しており、労働生産性や雇用者所得の高さの背景ともなっている。東京一極集中の代表的な産業である「専門・科学技術、業務支援サービス業」(広告業・研究開発サービスなど)も、同市では自立しているどころか域外から所得を獲得している。

最初の契機が自然環境の制約だったとしても、市民による地域での消費活動が地域サービス業を育み、域外から所得を稼ぐとともに地域に水準の高い雇用者所得をもたらし、それがまた地域サービス業を支えるという好循環を生み出しているのだ。これが同市経済の強みであり、市民の地域への愛着が、その原動力である。

同市の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で地産外商を掲げるが、第3次産業を育てているこの構造そのものも外商の対象となるのではないか。全国各地の稼ぐ力が向上すれば購買余力も増え、なにより高知のブランド力が高まり、域外からヒト・モノ・カネなどを誘引する力が強まるであろう。

賢く消費すればサービス業の自立的発展も可能である同市の経済構造を広く知らしめること、これによって地産外商の余地を広げること、それが高知市の羅針盤である。

(株式会社日本経済研究所地域本部副本部長・鵜殿裕)

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