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まちの羅針盤 vol.18 歩きたくなるまちに

(出典:環境省「地域経済循環分析」資料より筆者作成)

秋田県大館市

航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。今回は、秋田、青森、岩手の3県が接する要衝の地にあり、秋田県北部の中心都市として発展してきた大館市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。

恵まれた自然環境資源

大館市は、四方を山に囲まれた盆地で、中央を米代川が流れ、田園が広がり、「農業」「林業」でも域外から所得を稼いでいる。また、中世から鉱山資源に恵まれ、特に昭和初期はわが国有数の非鉄金属鉱山として繁栄したが、資源枯渇や環境変化もあり、現在では、蓄積された技術を生かした資源リサイクル産業の「化学」、「はん用・生産用・業務用機械」が地域の主要産業となっている。恵まれた環境から、農林業をベースに、時代に応じて移輸出産品を変化させながら域外需要を獲得してきたのが同市経済の歴史であろう。

一方で足元はどうか。2015年の地域経済循環図を見ると、地域の貿易収支等となる域際収支は赤字だ。地域の産業が、移輸出が多い第2次産業から、移輸入への依存が高い第3次産業に移ったからである。結果、分配段階の財政移転および支出段階の民間消費流入によって域外から所得を獲得するが、域際赤字で、住民の所得向上に結び付いていないのが現状だ(住民の所得水準は全国1719市町村中第1139位)。

当市の課題は、人口減少や高齢化といわれる。確かに国勢調査人口は1960年の10万人超をピークに2020年には6万9千人にまで縮小、高齢化率(15年)は35・8%と全国平均の25・4%を上回るが、まずは、こうした環境変化に負けない地域経済循環の構築が重要だ。域外からの所得流入を増やしつつ、域際収支を改善することであり、結果、所得水準が高まり、人口減少や少子化の歯止めにも寄与するであろう。

日々の暮らしこそ資源となる

そのためには、観光の産業化(観光で得た所得を地域で循環させること)に加え、地域ブランドを醸成することが求められる。

一般にブランドには機能的価値に加え、所有する満足感などの情緒的価値がある。さらに、観光やサービスでは、憧れとのつながりや所属感覚をもたらす自己表現価値(体験)が重要となる。日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」(ごみゼロ宣言)を行った徳島県上勝町でごみ収集所と一体運営されているホテル「HOTEL WHY」は、住民と同様のごみ分別を体験できる自己表現価値を加味し、世界でもまれなエコツーリズムとしてコロナ禍でも好評を博している。注目が集まるエシカル消費(環境・社会・地域に配慮された消費)も自己表現の一つだろう。

もともと大館市は鉱山開発の歴史もあって環境やエコの先進都市である。市を象徴する秋田犬の種の保存など、その歴史はSDGsの取り組みそのものであり、自己表現価値を生み出し誘発する要素が、住民の暮らしの中に内在している。

地域ブランド醸成には、その日常を内外に提示することが求められるが、同市では、出掛けて歩きたくなる取り組みが有効だろう。秋田犬そのものの魅力を伝えることはもちろん、住民が秋田犬と散歩するなど日常的に共存しているシーン(SCENE)を提供し、そこに参加したいと思わせることだ。公共空間の民間活用でにぎわいを生み出し、通過人口がつい車を停めて歩き(参加し)たくなる仕掛けも考えられよう。

コロナ禍での観光振興に異論もあろうが、同市はウィズ・コロナ時代に有望なマイクロツーリズム(近隣への短期旅行)の適地であり、今から準備が必要だ。また、歩きたくなる取り組みは、域内消費の活性化によるまちづくり・まちそだてや健康寿命の延伸、過度な車依存の改善によるエネルギー収支の改善・ゼロカーボンシティの実現など、広範な政策効果があり、日々の住民の暮らしを上質にするものでもある。

さまざまな先駆的取り組みを昇華させ、歩きたくなるまちづくりを進めること、これによって地域ブランドを高めること、それが大館市の羅針盤である。 (株式会社日本経済研究所地域本部副本部長・鵜殿裕)

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