テーマ別企業事例 価値ある企業の夢をつなぐ「第三者承継」の極意 三福タクシー

中小企業の後継者不足は日本が喫緊に解決しなければならない課題の一つである。後継者がいない場合の事業承継にはM&Aや第三者承継があるが、それには社名の存続、従業員の雇用や待遇などさまざまな不安があることも事実だ。コロナ禍も追い打ちをかける。そこで、譲渡する企業も譲渡された企業も満足するwin-winの関係を築いた第三者承継の事例を紹介していきたい。

100年に一度のビジネスチャンスを生かし地域経済に貢献する戦略型M&A

小浜市に拠点を置く三福タクシー。今年11月には共栄タクシーの子会社化、移転を図り、県北部の事業が本格始動する

福井県小浜市の三福タクシーが2021年3月、同県の福井市にある共栄タクシーの事業を引き継いだ。新規参入が難しいタクシー業界、それも同じ県内でのM&Aの成立はかなりレアケース。だが、共栄タクシーが譲渡先を探してからわずか5カ月で譲渡契約を締結した。両者とも「最良の事業承継」と喜ぶスピード成約に至った。

「地域の足」を守るとともに「観光客の足」を増やす

共栄タクシーの代表取締役社長の隅田強さんは今から4年前、65歳での社長引退を公言した。親族承継も従業員承継も叶(かな)わず、廃業もやむなしとの覚悟だった。そして2020年、65歳を迎えた。

「引退を公言する前から計画的に事業を縮小していました。人材は採用せず、ピーク時には従業員約30人、タクシー18台の規模でしたが、今は従業員10人、タクシー11台です。しかし、気掛かりだったのはお客さまと従業員の行く末。80歳の従業員もいて、従業員らの次の就職先のめども立たず、廃業費もかなりかかります。そこで、第三者承継も含めて検討するようになりました」

隅田さんが相談先に選んだのが、「福井県事業承継・引継ぎ支援センター(福井商工会議所)」だ。同センターは第三者事業承継の支援を主な事業としており、隅田さんは20年10月、顧問税理士を介して連絡をとった。同センターからは、候補先を紹介されるが、双方の条件面などで交渉は難航。そのような中、新たに現れた候補者が三福タクシーだ。代表取締役の岩﨑一沖さんは言う。

「社名に『タクシー』とありますが、弊社は貸切バス事業や旅行代理店業、送迎事業など観光誘客に向けた事業を幅広く展開しています。数年前より北陸新幹線が福井県内に延伸して敦賀駅まで開業されるのを『100年に一度のチャンス』と捉えていましたが、弊社の拠点である小浜は県南西部で、新幹線が走る北部は営業区域外。福井市などへの北部進出を模索していたところでした」

岩﨑さんは、共栄タクシーが主に地元の大病院である福井日本赤十字病院への通院や見舞客の足として長年活躍し続けてきたこと、そうしたお客さまを引き継いでほしいという隅田さんの思いに深く共感し、病院の送迎、そして従業員全員の継続雇用の条件も承諾する。隅田さんも三福タクシーに関心を寄せ、「従業員みんなに三福タクシーのことを話したら、満場一致で賛成でした」と目を細める。

両者の交渉は一気に進んだ。

条件だけではなく人柄や経営姿勢、基盤が決め手に

「条件」以外にも両者を引き付けるものがいくつもあった。三福タクシーは創業1957年、共栄タクシーは62年と創業年が近く、互いに親族から事業を継いだ境遇の類似点も親近感につながっていく。隅田さんは、福井市とは100㎞離れた小浜市から「今から行きます」と車で駆け付ける岩﨑さんのフットワークの軽さに好感を持つ。

「三福タクシーさんは小浜商工会議所の会頭企業の監査役をされるほどの有力企業。さらに決め手となったのが息子さんの事業承継が決まっていることでした。これなら安心してお客さま、従業員を任せられます」(隅田さん)

岩﨑さんも、共栄タクシーの病院送迎の実績から、年配者や体が不自由な人への接客レベルの高さに一目置いた。だが、互いに好感を持つとはいえ、全ての意見が一致したわけではない。当初、隅田さんは事業譲渡を希望していたが、三福タクシー側から株式譲渡を提案されて切り替えるなどの意見調整はあった。それでも交渉がスムーズに運んだ理由に、共栄タクシー、三福タクシー双方が事業引継ぎ支援センターを介してFA(ファイナンシャルアドバイザー)を間に挟んだことがある。個々の都合や条件を直接主張し合っては、まとまるものもまとまらない。意見の違いを穏やかに解消できたのも、M&Aに詳しい専門家の存在があったことは大きいようだ。

県の北部と南部をつなぐワンランク上の交通手段

21年の三が日早々にトップ面談を行い、株式譲渡代金や共栄タクシーの既存借り入れや社長借入金の返済処理などの条件をまとめて、基本合意を得る。そして同年3月、晴れて事業引き継ぎの成約に至った。

「FAを福井銀行から紹介していただいたことに加え、今回のM&Aが地域社会にプラスになると、ステークホルダーにご理解いただけたこともスピード成約につながりました」(岩﨑さん)

福井県内はもともと鉄道や路線バスなどの公共交通機関が少なく、地元住民はもちろん、県外の観光客も自家用車やレンタカーを利用する割合が高い。今回のM&Aは既存の顧客や従業員を守るだけではなく、県の南北をダイナミックにつなぐ新たな交通手段となり経済効果も期待ができる。

三福タクシーは県内全域の観光誘客事業拡大を目指し、ポストコロナ、アフターコロナを見据えて向こう3年はハイヤー事業に注力。高級車を利用したワンランク上の観光や地元客の記念日としての利用、さらに企業や行政機関の来賓送迎など、高付加価値や富裕層を意識したマーケット戦略に打って出る事業計画を立てている。

「昨年末に東京都内に多角経営の新会社を新設して都心からの観光誘客も狙うなど、福井の観光を県内外で盛り上げていきます」

M&Aで事業拡大に拍車が掛かる。

会社データ

社名:三福タクシー株式会社(みふくたくしー)

所在地:福井県小浜市千種2-1-13

電話:0770-52-1414

HP:http://mifuku.jp/

代表者:岩﨑一沖 代表取締役社長

従業員:48人

【小浜商工会議所】

※月刊石垣2021年10月号に掲載された記事です。

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