テーマ別企業事例 価値ある企業の夢をつなぐ「第三者承継」の極意 おしゃれ工房ルーベラ

中小企業の後継者不足は日本が喫緊に解決しなければならない課題の一つである。後継者がいない場合の事業承継にはM&Aや第三者承継があるが、それには社名の存続、従業員の雇用や待遇などさまざまな不安があることも事実だ。コロナ禍も追い打ちをかける。そこで、譲渡する企業も譲渡された企業も満足するwin-winの関係を築いた第三者承継の事例を紹介していきたい。

Uターンによる事業承継で地域に影響を与え活性化に貢献したい

子どもを楽しませるという店のコンセプトは変えず、店の看板や色合いなどは統一したデザインに変更した

静岡県西部の浜名湖のほとりにある遊園地・浜名湖パルパルの商業施設内に、ガラス工芸・雑貨店の「おしゃれ工房ルーベラ」はある。パワーストーンやガラス玉を使ったアクセサリーやミニチュアドームづくりが楽しめる体験工房で、地元企業が経営していたが、地元出身の女性が事業を承継した。店を引き継いでからまもなくしてコロナ禍に見舞われたが、SNSを駆使して店の情報を発信し、地元客を中心に集客を図っている。

会社勤めも先が見えてきて起業が選択肢の一つに

おしゃれ工房ルーベラ(以下、ルーベラ)は、遊園地に隣接していることから、小さな子どもから大人まで楽しめるよう、簡単で楽しく手づくり体験できるものを提供している。地元企業が事業多角化のために約20年前に開業したが、本業に集中するために事業譲渡を希望していた。

この店を現在運営しているのは、浜松市からほど近い袋井市出身の袴田久美子さん。ずっと東京で働いてきたが、そのうちに起業を志すようになり、地元の活性化に貢献したいという思いとも重なったことから、Uターンによる起業を目指すようになった。

「東京では、高校の教員を経てPR会社やビジネススクールの広報、電子書籍の取次会社の経営企画広報の仕事に就いてきました。以前は起業に興味はなかったのですが、ビジネススクールに勤務していたときにMBA取得の授業を受けさせてもらい、夢を持ってこんな会社をやりたいと語る学生さんたちと触れ合っているうちに、自分にとっても起業が選択肢の一つになってきたんです。それに、会社勤めもある程度の年齢になると先が見えてきて、それなら起業もアリかなと思いました」と、袴田さんは起業を目指すようになったきっかけをこんなふうに語る。

地元で起業することを考えるようになったのは、PR会社で地域PRの仕事に携わり、地域の仕事に興味が出てきたからだった。

「ビジネススクール時代には地域活性化の授業で福岡県の村に行き、地域問題を解決する課題に取り組みました。でも、学生たちが多くのアイデアを出しても、現地の住民でないと解決できない課題がたくさんありました。地域で何かするなら、その地域の人にならないと駄目だと分かりました」

支援センターの後継者人材バンクに登録

起業への思いを抱えたまま数年が経った2019年1月、事業承継という手段があることを知り、袴田さんは翌月から動き出した。事業承継のマッチングサイトで目についた企業に連絡して、オーナーと面会をしていくようになった。

「東京で仕事をしていたので、最初は東京の企業を探していました。いろいろなオーナーさんと面談させてもらいましたが、企業の大小にかかわらず、事業というのはその地域に大きな影響を与え、貢献していることを感じました。事業活動イコールその地域だと感じました。ビジネススクール時代の地域活性化の課題で気付いていたこともあり、やはり愛着のある地元で事業を行って、地域に貢献したいと思うようになりました」

袴田さんは事業承継マッチングサイトで静岡県内の企業を検索し、そこで見つけた工場の視察に行った。経営者から会社の経営状況は地元の商工会議所に聞いてほしいと言われ、浜松商工会議所で話をしたところ、静岡県事業承継・引継ぎ支援センターへの紹介状を書いてもらえることになり、同センターの後継者人材バンク(後継者不在の事業主に、後継者として起業家を紹介する事業)に登録した。19年4月のことだった。

「登録すると月1回、案件の一覧が掲載されたメールが送られてきます。初めて受け取ったメールに載っていた企業の一つに興味があったので、ここを紹介してほしいとメールで返信しました。浜松市内のガラス雑貨店で年商3000万円くらい。業種的にも会社の規模的にも、これなら私でもできるかなと。9月までに事業承継が決まらなければ閉店することになっていたので、それからは話が進むのがすごく早かったですね」

さまざまな機関の支援を得て契約までスピーディーに進む

「5月に支援センターで店の経営状況など詳しい話を聞きました。売りに出ているくらいなのでそこそこの赤字はありましたが、事業承継をするからには、その会社をどう立て直していくかにも私は興味があり、話を進めてもらうことにしました」

それからは店の視察を重ね、事業の損益を試算していった。増客は不確定要素だが、コスト削減は確実にできる。そこで、在庫の種類や点数を絞るなどの工夫で、スペースやスタッフを削減できないかシミュレーションを繰り返した。支援センターとも相談を重ね、事業計画に反映。金融機関から融資も受けられることが決まり、無事9月に契約を結んだ。

「支援センターが契約まで伴走してくれて、商工会議所には金融機関に提出する事業計画の指導をしていただきました。前のオーナーさんも協力的で、契約後にも店の再開を手伝ってくれました。店の体験メニューを考えたのも前のオーナーさんで、それでビジネスモデルとして素晴らしいと感じていたので、そのまま残しました」

1カ月の休業期間を経て、19年10月に店は再オープン。以前からの従業員3人も引き受けた。だが、これからというときになってコロナ禍となった。

「それでも、SNSで店の情報を発信していくことで、地元のお客さんが少しずつ来てくれるようになり、承継時のシミュレーションでコストを抑えていたので、翌年には黒字転換しました。今後どのように事業を展開していくかは、常にちょっと先を読み続け、フットワークを軽くして変化に対応していきます」

前事業主が考えたメニューや店に託した思いは残しながらも、店の運営には自分の色を出し、なんとか軌道に乗せている。このルーベラの事業承継は、理想的な形の一つといえるだろう。

会社データ

社名:おしゃれ工房ルーベラ

所在地:静岡県浜松市西区舘山寺町1891

電話:053-487-0030

HP:https://www.ruber-hamanako.com/

代表者:袴田久美子 代表

従業員:5人前後(季節によって変動)

【浜松商工会議所】

※月刊石垣2021年10月号に掲載された記事です。

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