東日本大震災からの復興の担い手となる東北各地の若手経営者の取り組みと思い描く10年後のビジョンを12回連載で紹介する
「わがまちを盛り上げたい」青森県五所川原市にあるホテル、パークイン五所川原の開業当時、周囲には田んぼしかなかった。父とともにホテルを立ち上げた現社長の中山佳(なかやまかい)さんは、積極的に地元の情報を発信し、人々の交流と笑顔を生み出している。その活動のきっかけと思いを伺った。
新商圏の誕生とともにまちを盛り上げるホテル
「エルムの街と立佞武多(たちねぶた)がなかったら、どうなっていたんだろうと思います」
「エルムの街」は青森県のJR五所川原駅から車で約10分の場所にある大型ショッピングセンター(SC)を中心とする商業地域で、その一角にパークイン五所川原がある。同社社長の中山佳さんは二代目で、2018年から代表を務める。エルムの街は1997年に第三セクターの五所川原街づくり株式会社が整備し、中山さんのホテルも街と同時期に開業した。
「立佞武多」は青森ねぶたなどと並ぶ青森の代表的な夏祭りで、高さ20m以上の巨大な人形灯籠がまちを練り歩く。この祭りは98年、約80年ぶりに復活した。現在はエルムの街と祭りが五所川原を盛り上げている。
このホテルは「笑顔の華咲く津軽のわが家」が基本理念である。
「ホテルは出張などで利用する人が毎日のように帰ってくる場所。津軽にあるわが家と思って気楽に泊まって笑顔になってほしい」
中山さんは2017年に経営塾で学び、この理念をつくった。現在はコロナ禍で暗い話題が多いが、毎朝の朝礼で理念を唱和すると「お客さまを笑顔にするいつもの接客をしなければ」と思う。経営理念があるからこそ、ブレずに自分たちが求めることをやっていけると考えている。
ブログで情報発信し「五所川原に多くの人を」
先代である父は、五所川原駅近くで宴会場兼レストラン「藤吉郎」を1969年に開業し、母は宴会場を切り盛りしていた。中山さんは短大卒業後、92年に家業へ入社。明るく接客好きで、地域の人とコミュニケーションをとるのに長けた母と一緒に働いた。
95年ごろから父とともにホテルを立ち上げる準備に奔走し、97年の開業と同時に取締役総支配人となった。当時、エルムの街には大型SCはあったが、道路の一部は開通しておらず、周囲には田んぼがあるだけだった。
中山さんは野立て看板や電話帳の広告、出張がありそうな業界にDMを出すなど工夫し、少しずつ宿泊客が増えた。インターネットが普及すると、ホームページやブログでホテルや五所川原の情報発信を積極的に行った。
その情報発信力とバイタリティーが認められ、観光コンシェルジュの会長や五所川原市の特産品赤~いりんご応援隊長などに就任した。その後、日本商工会議所青年部(YEG)の活動にも携わり、各地を訪れて仲間と交流を深めた。
2011年の東日本大震災発生当時、五所川原には大きな被害はなかったが、「仲間たちのためにできることは何だろう?」と考え、義援金や支援物資を集めた。被災地へ何度も足を運び、炊き出しも行った。YEGの活動では、小さなまちでも盛り上げるための活動を積極的に行っている仲間に刺激を受けて「五所川原にもたくさん人を呼びたい」と思うようになった。17年にはYEG東北ブロック大会を五所川原で開催し、中山さんは大会会長を務めた。
ホテルを観光と交流の場にコロナ後の集客を模索
現在、ホテルは昨年から続く新型コロナ禍の影響を大きく受けている。立佞武多の祭りは2年連続の中止で、祭りの次に稼ぎ時のお花見もなく、歓送迎会もなくなった。隣接するSCも一時、一部の営業を自粛した。
中山さんはホテルスタッフとアイデアを出し合い、市役所や病院への弁当出張販売をスタート。青森県が県民向けに行ったキャンペーン用に特別宿泊プランをつくるなど策を講じているが、20年の売り上げは対前年比約30%減。以前は宴会も行っていたレストランは特に厳しく、対前年比50%減の月もある。
「コロナが収まっても、以前のような大人数での宴会ができるかどうかは分からない。やり方、在り方を変えないといけない」
今は厳しい状況が続くが、中山さんはコロナ後の観光について、五所川原のように自然が多くて密にならない場所で、のんびりしたい人が増えるのではないかと期待している。
「ホテルは単に宿泊や食事の場だけではなく、観光の情報発信の場にもなる。観光客も地元の人もいろいろな人たちが集える交流拠点になればいいと考えています」
会社データ
社名:株式会社パークイン五所川原
所在地:青森県五所川原市大字唐笠柳字藤巻66-12
電話:0173-34-8910
HP:https://www.parkinn-elm.co.jp/
代表者:中山 佳 代表取締役社長
従業員:39人
【五所川原商工会議所】
※月刊石垣2021年10月号に掲載された記事です。
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