Q 当社は医療品を中心とした運送業です。法定労働時間を超えて労働させる手続きとして、いわゆる36協定を締結し行政に届け出て、法令順守による労働時間管理を行っていますが、大規模な風水害の際に、地域のライフラインを維持するために、やむを得ず時間外労働が36協定時間を超える事態も想定されます。こうした場合に備えた時間外労働の取り扱いについて教えてください。
A 労働基準法33条1項により、「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」には、使用者は、法定の労働時間を超えて、または法定の休日に労働させることができます。なお、あらかじめ、所轄労基署長の許可が必要ですが、事態急迫のために許可を受ける暇がない場合は、事後に遅滞なく届け出なければなりません。
労働時間・休日の原則
1 法定労働時間、法定休日
労働時間の限度は、原則として、1日8時間、1週40時間。少なくとも1週間に1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
2 法定労働時間を超えて時間外労働させる場合や法定休日に労働させる場合には、あらかじめ労使協定(36協定)を結び、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。
3 36協定を締結した場合、時間外・休日労働の上限規制は、原則月45時間・年360時間です。また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合、この上限を超えることができますが、「時間外労働(休日労働は含まず):年720時間以内」「時間外労働+休日労働:月100時間未満、2~6カ月の平均は80時間以内」「時間外労働が45時間を超える月:年6カ月が限度」という制約があります。
非常時災害などの対象範囲
許可の対象には、「災害その他避けることのできない事由」に直接対応する場合に加えて、その事由に対応するに当たり、必要不可欠に付随する業務を行う場合が含まれます。
また、臨時の必要がある場合、所轄労働基準監督署長の許可を受けて、原則の法定労働時間を延長してまたは法定休日に働かせることができますが、許可申請や届け出に際しては、「災害その他避けることのできない事由」に該当するかどうかを判断できる資料があれば、併せて提出することに注意が必要です。
許可基準
労働基準法33条1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定であるため、その臨時の必要の限度において厳格に運用すべきものと定めており、その許可や事後の承認はおおむね次の基準によります。
1 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認められません。
2 地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災などの災害への対応急病への対応その他の人命または公益を保護するための必要は認められます。
3 事業の運営を不可能とさせるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認められます。
4 前記2および3の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命または公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には、認められます。
なお、許可基準に定めた事項はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によって、「臨時の必要がある場合」となることもあり得ます。
厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染の防止や感染者の看護などのために労働者が働く場合について、労働基準法33条1項の「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当し得るとの見解を示しました(2020年3月)。今後はこうした柔軟な行政対応により、大規模災害発生時など許可申請は増える可能性も見込まれます。 (社会保険労務士・田代 英治)
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