アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 混迷するアジアのエネルギー

日本はかつては世界の半分以上のLNGを輸入していた(横浜沖)

中国の電力不足、停電頻発のニュースが日本でも大きく報道されている。広東省、江蘇省などの工場が停電で操業率が低下、製品、部品の輸出に影響が出ており、日本企業にとっても「対岸の火事」では済まない。日本にとって悩ましいのは、中国が抑制していた石炭、液化天然ガス(LNG)など火力発電の燃料の輸入を急増させ、スポット市況が急騰したことだ。かつては安定調達のため燃料を長期契約で手当てしていた日本の電力業界も割安の玉を狙ってスポット比率を高めていることや、長期契約のLNGの価格が連動する原油価格そのものの上昇も響いている。

こうしたエネルギー価格の上昇、高止まりは、地球温暖化対策として火力発電から再生可能エネルギーへの転換が進む過渡期では今後も頻繁に発生する可能性がある。理由は簡単だ。商品のライフサイクルが終わろうとする化石燃料への生産増強投資は起きにくい一方、再生可能エネルギーの増強、供給安定性の確立には時間とコストがかかるためだ。

言い方を換えれば、「地球温暖化対策の理念、理想とエネルギー供給体制の現実のギャップ」である。こうしたギャップを打開する唯一の方法は原子力発電しかないだろう。原子力には強い反対があるのは承知の上で言えば、日本では再稼働可能な原発が30基以上あり、耐震など安全対策は東日本大震災以降、確実に進んだ。国民経済的にみれば、これを活用しない手はない。原発をリプレース(建て替え)するか、新設するかは日本の長期エネルギー戦略であり、国民の大きな判断となるが、長年、安全に運転してきた実績のある既存原発を10~15年といった期間限定で再稼働させるのは現実的な解といえるだろう。

別の視点でいえば、日本が原発を一定規模で再稼働させれば、LNGの調達は減り、現状で逼迫(ひっぱく)するアジアのLNG需給の緩和材料になる。かつてはお金持ちのためのエネルギーだったLNGは今や中国はもちろん、インド、タイ、ベトナム、フィリピンにも広がり、途上国のエネルギーに変わった。原子力という他の選択肢も持つ日本はアジア諸国とLNG調達で競争すべきではない。

また、日本が電力の供給安定性をアピールできれば、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化が必要となっている流れの中で、生産拠点の国内回帰を後押しすることにもなる。今、話題となっている外資の半導体工場の誘致でも電力は水と並んで日本の強みとなり、日本の地方にチャンスが広がるだろう。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門
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