コラム石垣 2021年11月21日号 中村恒夫

日本のインベスターリレーションズ(投資家向け情報提供=IR)活動普及に尽力した故石黒徹氏の追悼文集が知人から送られてきた。この中で同氏の「足元の小銭を拾うな」という言葉には感銘を受けた。目先の利益にとらわれ、企業が長年築き上げた信頼を損ねてはならないという意味だ。「禁じ手」とされた方法で利益を上げても、一度失った信頼を回復するのが容易でないのは、産地偽装事件などでも分かっている。

▼にもかかわらず「違法ではないから」という理由だけで、役員にも十分周知しないまま、リスクの高い事業に進出しようとする企業が後を絶たない。中には取締役会から引導を渡されるケースもある。自身がトップでいるためには、何が何でも成果を残すしかないといった偏狭な考え方に固執するためかもしれない。

▼かつてベンチャー企業の創業者が、法律すれすれの手法でM&A(合併・買収)を繰り返したとき、ある有力財界人は「法律に触れていなくても、ビジネスマナーに反していては経営者として尊敬されない」と批判した。ほどなく彼の手法は行き詰まり、無理を重ねた結果、法律の裁きを受けることになった。東京商工会議所初代会頭の渋沢栄一は、不道徳な方法で稼いでも商才とはいえないといった趣旨の考えを残したが、それは今でも通じると思う。

▼世界的な半導体不足、1次産品の価格上昇など、新型コロナウイルスの感染が落ち着いても、企業を取り巻く経済環境は厳しさを増している。経営者としては従業員の雇用と利益を確保するため、対策を講じなくてはならない。ただ、その際でも、自社に対する信頼感を失う事態には絶対に陥らないように留意することが重要である。 (時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)

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