日本商工会議所の三村明夫会頭は11月4日、定例の記者会見に臨み、新型コロナウイルス「オミクロン株」の出現による水際対策の強化について、政府として過去の経緯にこだわらず素早く対策を強化したことは、「英断であり私は評価している」と述べた。一方で、国際協力の下で早期に分析を進めることの必要性を指摘。これまでの知識・経験を踏まえた迅速な対応を求めた。
来年の春闘については、「K字回復といわれる中で、好業績を上げる企業もあればそうでない企業も多数存在する。企業ごとに収益環境は大きく違うので、賃金を引き上げるかどうかは各社の状況に応じて判断するべき」との考えを表明。新しい資本主義実現会議における岸田首相の発言にも触れ、「(首相は)業績がコロナ前の水準を回復した企業について、3%を超える賃上げを期待する」との考えを示したことから、「一律の賃上げを期待しているわけではなく、民間企業への配慮が見られる」と指摘した。
中小企業の収益構造問題については、中小企業の労働分配率が75~80%と高く、金利、租税公課、配当などに多くが費やされている」と指摘。「中小企業の場合、将来に向けた投資に回せる付加価値が、コロナ禍以前でも約8%、足元では4%程度しかない。将来に向けた投資を行いながら賃上げを実施するためには、それらの原資となる付加価値を増やすことが不可欠」と述べた。
賃上げできる環境をつくるためには、中小企業のデジタル化などによる生産性向上の取り組みや、「パートナーシップ構築宣言」の推進による取引価格の是正に粘り強く取り組むことが必要との考えを示すとともに、「将来への投資が行える状況にない多くの企業への配慮も同時に必要」との考えを示した。
大企業と中小企業の格差是正を訴える連合の主張については、「理解できるが、賃上げする前に原資を稼ぐ必要がある。幸いにして連合は取引価格の是正に全面的に賛成しているので、連合とも協力しながら、原資の創出に向けて力を入れていきたい」と述べた。
価格転嫁の問題については、「今回の問題の本質はBtoCにあると思っている」との見方を示し、「諸外国のように、消費者物価が上がり、それによって企業が付加価値を向上させて生産性を高め、それが賃金に回り、消費者もある程度物価が上がっても耐えられる、という循環が形成されることが必要」と強調。「消費者物価が上がらなければ付加価値は増えず、日本全体の生産性が停滞してしまう。この状況を何とかブレークスルーしなければならない。そのためには、商品価値に見合った価格設定を行うことが重要だ」との考えを示した。
価格転嫁の解決のためには、「最終消費者や政府も含めて国全体でコストを負担するという方向に進まなければ日本全体がジリ貧になる」と指摘。「中小企業の価格転嫁が進まない原因は幅広く、解決すべき課題も多い」と述べた。
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