プラント分野では予防保全や運転の効率化を目的としたDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる。中山鉄工所は砕石プラントやリサイクルプラントをloT+ICTで遠隔監視、そこから取得したデジタルデータの活用を通じて、顧客のDX推進に貢献している。
プラントをloT化して稼働状況を遠隔監視
佐賀県武雄市に本社を置く中山鉄工所は、破砕機・選別機・製砂機・コンベヤなどの設計製作、砕石プラント・リサイクルプラントの設計製作を手掛ける機械メーカー。同社営業部部長で企画開発担当の渡邊美信さんによると、機械設備は納入して終わりではなく、稼働した後にユーザーからさまざまな課題の解決を求められると言う。
「例えば機械稼働のコンサルティング、機械不具合・操作方法の問い合わせ、部品の注文・取り付け、機械代・部品代の見積もり・請求・入金集金といったさまざまなコミュニケーションが発生します。そのたびに営業担当者やメンテナンス担当者が現場へ出向いており、この手間の解消は、お客さまと当社双方の課題となっていました」
そこで同社のイエールクラ ラムクマールさんらが中心となって開発したソリューションが「N-Global(エヌ グローバル)」だ。同社、顧客、顧客が稼働させている機械の3点をインターネットで接続し、全ての情報をクラウドに集約し、顧客に対し的確で素早いサポートの提供とプラントの遠隔監視を可能にするサービスだ。
「N-Global」の中で、同社と顧客間は「N-Client(エヌ クライアント)」、同社とプラント間は「N-Link(エヌ リンク)」というloTシステムで結ばれる。メンテナンスのようなサポートは、「N-Support(エヌ サポート)」が担う。渡邊さんは、「N-Global」が稼働する以前の状況をこう振り返る。
「プラントにトラブルが発生すると、お客さまからは『すぐに来い』という連絡が入ります。そのため、詳しい状況が分からないまま現場へ飛んで行き、状況を確認して、修理や部品の手配をして、再び現場へ出向くという手順を踏まなければならず、トラブル解決までに相応の時間がかかっていました」
そんなアナログな環境が、「N-Global」を導入すると、こう変わる。
「トラブルが発生すると、お客さまは『N-Client』にある『N-messenger(エヌ メッセンジャー)』のチャットや通話機能を使って、当社のコールセンターや営業担当者にコンタクトします。コールセンターや営業担当者はお客さまと、『N-Link』で画面を共有しながら、トラブルを解決します。メンテナンス担当も加わった多人数チャットが可能なので、修理が必要な場合でもスムーズに対応できます」
「N-Client」は、同社が顧客に送ったメンテナンス報告書や見積書などを受け取ったり、機械操作マニュアルを閲覧したりする機能も併せ持つ。
現場のブラックボックスを見える化して生産性が向上
当初、「N-Link」を通じて機械の稼働状況を見られることに難色を示す経営者もいたが、経営に関わる情報の取得が目的ではなく、予知保全が目的であることが理解されると抵抗感はなくなった。そして今では、経営者の目が届かず、従業員の裁量で動いていた現場が見える化されたことを喜んでいるという。
もちろん現場にも大きなメリットがもたらされる。かつてのプラントの操作室はほこりと騒音にまみれた場所で、職人技を持った従業員が機械と操作室の間を行ったり来たりして動かしていたが、同社のシステムを入れると職人技は不要となり、経験の浅い従業員でも清潔な操作室から遠隔で操作ができるようになる。そのため従業員の安全が確保でき、人件費の削減や作業の効率化も図れる。
では、導入コストはどれくらいなのか。同社が販売する数千万円クラスの機械にはPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)という制御デバイスが組み込まれているので、そこから得たデータを飛ばすためのSIMカードユニットやソフトウェア代金として20万円程度が追加されるだけだ。機械から得られたデータを飛ばすための通信料は同社が負担するので、その部分のランニングコストはかからない。
未対応の機械にセンサーを後付けする場合は、数百万円から1000万円程度の改修費用がかかることもあるが、先に挙げたようなコストを上回る対価が得られるため、機械の更新を待たずに導入したいという顧客も多いという。
さらに、「N-Global」を通じて、顧客が請求書などのデータを経理システムに取り込む仕組みをつくれば、事務作業の自動化・効率化にも貢献する。つまりプラントにとどまらず、バックオフィス業務の負荷も軽減できるわけだ。
「N-Global」は、実現が難しいといわれていた作業現場のDXツールといえそうだ。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・顧客である砕石・リサイクル企業経営者の目が遠隔地のプラントまで届かず、現場がブラックボックス化していた
・従業員が大型機械に近づき作業するため安全確保が課題だった
・運転技術が属人化していた
導入したITシステム
・同社の遠隔監視システム「N-Link」などを包括した「N-Global」
IT化後の状況
・経営者は遠隔地にあるプラントの稼働状況をリアルタイムで監視できるようになりブラックボックス化が解消された
・従業員の安全確保が実現した
・プラント運用経験の浅い従業員でも効率よく運転できている
会社データ
社名:株式会社中山鉄工所(なかやまてっこうじょ)
所在地:佐賀県武雄市朝日町甘久2246-1
電話:0954-22-4171(代)
代表者:中山弘志 代表取締役社長
従業員:120人
【武雄商工会議所】
※月刊石垣2022年1月号に掲載された記事です。
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