わが社もできるIT化/身の丈ITで生き残れ! vol.32 さくらCSホールディングス株式会社

中元秀昭代表取締役兼CEOは、「ケアビューアー」にAPI連携機能を搭載し、メーカー・機種問わずさまざまなクラウドサービスとの連携を容易にすることで介護の質の向上を目指している

慢性的な人手不足に悩まされている介護現場。国はITを導入して介護職員の文書作成に費やす時間を削減し、介護の仕事に集中できる環境をつくるよう呼び掛けているが、現場のIT化の歩みは遅い。そんな中、介護事業を主力とするさくらCSホールディングスは、職員の負担を軽減するアプリを自社開発し大きな成果を上げている。

当初は外国人材に向けた多言語ツールとして開発

厚生労働省がまとめた「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によれば、介護職員の必要数は、2019年度の約211万人を基準にすると、25年度には約233万人、40年度には約280万人まで増やす必要がある。国としては、①介護職員の処遇改善②多様な人材の確保・育成③離職防止・定着促進・生産性向上④介護職の魅力向上⑤外国人材の受け入れ環境整備といった総合的な介護人材確保対策に取り組むとしているが、民間では既にITの力を借りて、それらの課題を解決しようという試みが行われ成果を上げている。

北海道札幌市のさくらCSホールディングスグループは、札幌市を中心に、地域密着型の事業所を13カ所運営する介護・福祉サービス事業、介護資格取得および研修を実施する養成校を運営する教育研修事業、介護職に特化した人材派遣・人材紹介の人材サービス事業、企業主導型保育園を運営する子育て支援事業、介護記録・AIケアプラン作成ソフトの開発・販売のものづくり事業などを展開している。

同社の特徴は、「ケアビューアー(Care Viewer)」という介護クラウドサービスを自社開発してIT化を推進、それを同業他社にも販売している点にある。

同社の代表取締役兼CEOの中元秀昭さんは、介護現場の状況とアプリを自社開発した理由をこう話す。

「介護保険法で定められている介護記録作成には、事業所1カ所当たり年間約5400時間、職員1人当たりでは1日およそ1、2時間が取られています。そのため職員は残業を強いられたり、ケアの時間が削られたりしています」

また、介護記録は7年間の保管義務があるため、事業所の中は、紙の台帳であふれかえっていた。せっかくの記録も活用したくても、紙媒体では検索に手間が掛かりすぎるので、見返して介護計画の参考にすることも難しかった。

こうした課題を解決するクラウドサービスを探したが、コストと機能の両面でぴったりのものが見つからず、自社開発を決め、16年にプロトタイプを完成させた。

自社開発にこだわったのは、外部に〝丸投げ〟したのでは良いものがつくれないと考えたことと、ナレッジ(知識・知見)を自社に蓄積することが必要と考えたことからだ。販社だった傘下の日本KAIGOソフトを開発会社に転換させて開発部隊を置き、知見が不足する部分は外部の開発者を起用してオンラインで結び、介護現場の声を聞きながら開発を進めていった。

実は構想段階のアプリは、今とは違うコンセプトだった。

「アプリ開発の構想は10年前からありました。当時、介護に携わる外国人材の受け入れのため、多言語(ミャンマー語、タイ語、ベトナム語、中国語、英語)に対応したツールが必要になり、アプリ開発を始めました。でもその頃は翻訳エンジンの能力が未熟だったこともあり実用化が進まず、目の前にある介護現場の課題を解決する方向にかじを切ったのです」

18年には社内の実証実験を経てAndroid版を無償公開。実用レベルの多言語化も実現した。続いて19年にAI機能の開発を追加で行い、20年から有償販売を開始した。

介護記録作成にかかる時間を大幅に削減

介護現場から生まれたという強みを持つ「ケアビューアー」導入により、介護記録の作成に隙間時間を使えるようになり、紙記録に費やしていた5400時間のうち、85%を削減。浮いた時間をケアの充実に充てることができるようになり、職員のモチベーションが向上した。紙代やコピー費用もなくなり、年間300万円相当の経費が浮いた。介護記録のデジタル化によって、記録すべき内容や項目が統一され、手書きで読めないなどの問題も解消された。ケアプランの確認もその場でできるので移動時間や確認時間の節約になっている。Chatwork(チャットワーク)やLINE WORKS(ラインワークス)と連携し、介護職員、利用者、家族、医療関係者とコミュニケーションを図ることもできるようになった。

現時点でも十分に介護現場に貢献している「ケアビューアー」だが、中元さんは開発の手綱を緩めず、22年1月以降大幅な機能強化を予定している。一例を挙げれば、強化したAIを搭載し介護記録の自動作成と介護状況の将来予測を行う機能の搭載などだ。

「機能強化により、職員はより本来の仕事に集中できるようになり、介護の生産性向上(=被介護者に関わる時間を増やすこと)が実現し、それによりご家族の安心も得られます」

中元さんは、IT化成功の秘訣(ひけつ)を「リーダーの強い思いも大事ですが、それ以上に、知恵を集約して一緒にやりたいという思いを醸成していくことが大事」と話す。22年に公開される「衆知を集めた」アプリが楽しみだ。

わが社ができたIT化への取り組み

IT化前の問題

・介護保険法で定められた介護記録の作成のため残業を強いられる

・介護記録は7年間の保管義務があるため、事業所は紙の台帳であふれかえっていた

・紙媒体の介護記録から情報を得ようとしても該当部分を探すすべがなかった

導入したITシステム

・介護クラウドサービス「ケアビューアー(Care Viewer)」を自社開発して介護現場に導入

・ビジネスコミュニケーションツール「Chatwork」や「LINE WORKS」と連携してコミュニケーション機能を強化

IT化後の状況

・紙に記録していた4590時間を削減できた

・紙代やコピー費用がなくなり、年間300万円相当の経費が削減できた

・介護職員の負担を軽減し、時間を介護の質の向上に充てられるようになった

・職員間の連絡がスムーズになった

会社データ

社名:さくらCSホールディングス株式会社

所在地:北海道札幌市北区北40条西4丁目2-7 札幌N40ビル6F

電話:011-716-3987

HP:https://sakura-cs.com/

代表者:中元秀昭 代表取締役兼CEO

従業員:307人(グループ社員)

【札幌商工会議所】

※月刊石垣2021年12月号に掲載された記事です。

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