「昭和」切り口に遊園地が人気復活
昨年は、昭和レトロが注目された1年でした。日経トレンディの「2021年ヒット商品ベスト30」では、昭和・平成レトロブームが4位にランクインし、その代表格として「西武園ゆうえんち」に注目が集まりました。
ちなみに仕掛けたのは、ユニバーサルスタジオを人気の遊園地に押し上げた森岡毅氏です。いわく、人が遊園地に集まるのは、幸福感と興奮を得たいから。その目的を忠実に満たしている遊園地は、興奮ならジェットコースターをバンバンつくった富士急ハイランド。幸福感なら東京ディズニーリゾートが代表といえます。
一方で、西武園ゆうえんちは両方とも満たせる状況になかったので、来場者が激減していました。こうした状況からの脱却を期待されて、同遊園地のリニューアルを任された森岡氏は、ディズニーとは違う切り口から幸福感が提供できないかと検討。「昭和のコミュニティー」を再現したコンテンツがその切り口になると判断。1960年代の商店街を再現した「夕日の丘商店街」など、当時の建物をリアルにつくり込み、おせっかいなほど人情味にあふれ、人懐っこい人々との心の触れ合いを通じて、心温まる幸福感を感じられる場所をつくりました。
商店街では、時折、住人たちが繰り広げるエンターテインメントショーが繰り広げられ、昭和に引き込んでくれます。園内通貨で買える食事は懐かしいナポリタンやクリームソーダ。遊びに行った人の感想は、昭和の温かさに触れた喜びと新鮮さを語るコメントが数多く見受けられます。
心温まるコンテンツ まち再生の鍵にも
不人気で閉園の可能性もあった遊園地は、大復活しました。昭和のコミュニティーを正確に記憶している人は少ないと思いますが、「あの時代は良かった」と世代を超えて刷り込まれています。景気が右肩上がりで生活が豊かになっていく実感があった。そんな前向きな状況が、映画やドラマを通じて語り継がれてきました。昭和の魅力にはまった20代もたくさんいると聞きます。そのため、昭和のコンテンツが幅広い世代の幸福感を満たす人気遊園地に変貌させました。
この成功は、老朽化して、悩みを抱える全国の遊園地の再生と復活への大きな希望、勇気となる気がします。さらに言えば、遊園地に限らず、閑散としている商店街やまち並みも「諦めることなく、幸福感を提供できる施設に変貌できるかも?」と期待を抱かせる成功ではないでしょうか。
日本中に、昭和コミュニティーはたくさん現存しています。西武園ゆうえんちの成功を参考にして、仕掛けを考えてみてはどうでしょうか。 (立教大学大学院非常勤講師・高城幸司)
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