古手川産業
大分県津久見市
分家として独立して発展
大分県の沿岸部にある津久見市は、国内屈指の良質な石灰石を産出することで知られる。その地で古手川産業は、100年以上にわたり石灰関連の事業を行っている。創業は明治28(1895)年で、初代の古手川音五郎が石灰製造と海運業を営む古手川商店を創設したのが始まりだった。
「江戸時代から漆喰(しっくい)の材料となる石灰づくりが盛んであった津久見で、古手川家の本家が明治初期から石灰の製造販売をしていました。三男だった音五郎は、日本が日清戦争の勝利で景気が良かった頃、本家から分家独立したのです。本家はすでに石灰業をやめてしまい、分家の方だけが残りました。私は社長としては五代目ですが、音五郎の長男と次男がそれぞれ社長を務めているので、世代的には4世代目になります」と、社長の古手川保正さんは言う。
創業当時はレンガを土で固めた土中窯の中で薪(まき)や石炭を燃やして石灰石を焼き、それを漆喰や肥料にして販売していた。周りには同業者が数多くいたため、家内工業的な細々とした商売だった。やがて明治後期から昭和初期にかけて日本の工業化が進むにつれて、石灰が非鉄金属の銅やマンガンなどの精錬に使われるようになり、石灰の質と供給量が問われるようになっていった。
「そのため、小さく商売していたところがだんだんと淘汰(とうた)されていき、生き残れるところが絞られてきました。うちがどうして取引先から選ばれたのか。品質や安定供給、確実な配送などで頑張ったためと聞いています」
リスクを取ってシェア増へ
昭和初期、三代目の忠助の誘致により、関西の資本家グループが津久見にセメント会社を設立した。三代目はセメントの原料となる石灰石の採掘の仕事を専属で請け負い、焼いた石灰石を販売する事業と両輪で進めていった。
「戦時中は燃料が不足していたため石灰焼きが難しくなりましたが、セメントは軍需産業だったので、石灰石の採掘は止まりませんでした。また、三代目の人脈で規格外の石炭を田川(福岡県)の炭鉱から融通してもらうことができ、石灰焼きも続けられた。それで困難な時期を乗り切ることができました。運が良かったです。セメント会社の方は合併を重ねて体制が変わっていきましたが、石灰石採掘の仕事は今でも引き続き専属で請け負っています」(古手川さん)
高度成長期に入ると、昭和47(1972)年に九州では他社に先駆けてドイツ製の焼成炉を導入し、高品質な製品の量産体制を確立した。焼成炉は石灰石を焼いて生(せい)石灰をつくる炉で、生石灰は製鉄、紙パルプ、化学工業などさまざまな産業分野で利用されている。
「高度成長期には重工業が発展し、生石灰の需要も増えてきました。しかし、大量生産できる大型焼成炉は失敗するリスクもあり、ほとんどの企業は手を出しませんでした。実際、私たちも国産の1号炉ではうまくいきませんでした。それでも私たちは再度チャレンジし、ドイツ製焼成炉を九州で最初に導入したことで、大きくシェアを伸ばすことができたのです」
石灰以外の事業にも取り組む
古手川さんが子どもの頃、近くに石灰石を採掘している山があり、そこの石灰石は無尽蔵だといわれていた。しかし、古手川さんが高校に入るころには「あと数十年」といわれ、大学卒業後に東京で会社勤めを4年やって昭和58(1983)年に戻ってきたときには、その山はほとんどなくなっていた。
「それを見て、石灰石には限りがあることを実感しました。今では、津久見の石灰石はあと約100年分あるといわれていますが、私たちは100年などすぐだと考え、津久見に石灰石がなくなっても生き残っていくためには何をしたらいいのかを考えるようになりました」と古手川さんは言う。
その一つが、付加価値の高い石灰製品を開発していくことで、その技術があれば、ほかの地域から石灰石を運んできて加工しても採算が合う。
「石灰製品の開発で今チャレンジしているのが、石灰石を原料に化学的に合成する炭酸カルシウムです。これは多種多様な工業用途で機能性を付与する充填(じゅうてん)剤となり、値段も生石灰より2桁は高くなります。このように、限られた資源を有効に使い、事業を続けられるようにしたいと考えています」
もう一つが、石灰以外にも事業の柱を持つことで、大型産業機械や制御装置の製造、重機のメンテナンス、運送など、グループ会社を設立して別の事業にも取り組んでいる。
一つの事業に集中するのではなく、それ以外の事業も持ち、それにより相乗効果を生んでいくグループ経営。古手川産業はそれに向かって進んでいる。
プロフィール
社名:古手川産業株式会社(こてがわさんぎょう)
所在地:大分県津久見市合ノ元町1-4
電話:0972-82-1331
代表者:古手川保正 代表取締役社長
創業:明治28(1895)年
従業員:約130人
【津久見商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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