2021年「全国中小企業クラウド実践大賞」で総務大臣賞を受賞した城善建設(和歌山県和歌山市)は、〝3種の既製品〟を組み合わせたシステムでDXを推進、社員のITリテラシーに関係なく運用できるフローを構築し、業務の効率化、残業や休日出勤の削減などを実現した。ポイントはシステム構築の考え方と、社員への啓蒙(けいもう)活動だ。
Uターン入社のIT担当者がつくったクラウドシステム
城善建設は和歌山県を中心に、住宅事業、建築事業、コンサルティングなどを手掛ける建設会社。2019年に建設会社向けの基幹(業務効率化)と一部CRM(顧客管理)を担うシステム「Anyone(エニワン)」、クラウドストレージの「box(ボックス)」、ビジネスチャットツール「Slack(スラック)」という既存のサービスを連携させた「Jyouzen Group Cloud Project」(図1)の開発をスタートさせた。エニワンとボックスを連携させることで、顧客のデータ、現場の図面、写真、動画、提案書などがクラウドで一元管理でき、社員はどこにいてもデータにアクセスできるようになる。社内にサーバーを持たないのでBCP(事業継続計画)対策としても有効だ。ウイルス感染を防ぐため社内メールを廃止してスラックに置き換え、こちらもボックスと連携させた。
20年から本格的にシステム構築を始め、その年の後半には社員全員が利用できる体制が整った。
このIT化を推進したのは、14年に中途入社した管理部IT情報システムマネージャーの和田正典さんだ。和歌山市出身の和田さんは、東京の大手メーカー、ITコンサルティング会社で海外赴任も含めて幅広い経験を積んだ後、故郷の活性化につながる仕事がしたいとUターンした。
同社での仕事は新規事業の立ち上げで、本業の建設部門との接点はあまりなかったが、社内のパソコンを巡って起こる頻繁なトラブルと、それを解決できる人材がいないことを見かねて社長の依岡善明さんに、「私が情シス(情報システム部の仕事)をやります」と申し出た。
パソコンによるデータの管理も遅れていたため、パソコントラブルも多かった。
「データが整理されていないから、紙の資料を引っ張り出して、新しい提案資料をつくっていました。それだけで何時間も費やす。チャンスロスですよね。しかも、みんな納期ギリギリで動いているので、イレギュラーの事態が起こると即残業です」
依岡さんと話し合って、「このシステムで何がしたいのか」を明確にし、和田さんは一人でシステムをつくり始めた。常に念頭に置いたのは、業務のスピード、情報のシェア(共有)、ストレスフリー、セキュリティーの「4S」を実現すること。建設現場の経験がなかったので、現場監督に密着して仕事のやり方を学んだ。その成果の一つが、タブレット端末とノートパソコンの役割分担。狭い現場内にはタブレット端末を持ち込み、図面や資料を確認したり、相手に見せて説明したりする用途に使い、ノートパソコンは社用車や現場事務所に置き、入力作業などを行うようにした。
説明会を開かず一人一人の元に出向いて個別指導
システムが完成すると次は、使いこなすための社員教育が必要になるが、「今までの教育の仕方は、対象者を集めてマニュアルを配り、説明するというものです。私にも経験がありますが、対象者は社命で仕方なく仕事を中断して会場に集まる。それでは覚えようという気持ちにはなりません。そこで私は、説明会を開かず、一人一人の元へ出向き、1on1(ワンオンワン、一対一)でその人のスキルに合った説明をしました」
1on1方式だから、どこが理解できていないのかが分かり、効率的・効果的な教え方ができる。50代、40代というように年齢が高い順に教えていったので、予想外の操作をして驚かされることもあったが、決して批判せず、逆に改善箇所を指摘してくれたと感謝した。
三つの既存サービスに絞ったことは、費用面でもメリットをもたらした。単純な比較は難しいが、イニシャルコストは5分の1ほどに圧縮できた。ランニングコストは、サブスクリプションサービスのため、どれだけ使っても定額だし、メンテナンス料金は不要、しかもいつでも乗り換え、廃止ができる。
クラウド化の効果で、社員は重い図面を持ち歩かなくても済むようになり、資料や書類の確認・提出のため社へ戻る必要がなくなった。残業と休日出勤も減っていった。「ただ、社用車のガソリン消費量とカラーコピー量は増えましたね。以前は1日で3現場しか受け持てなかったのが5現場、6現場と受け持てるようになり、走行距離が長くなりました。カラーコピーは、お客さまに対応する時間が増えて、提案書の数が増えたためです」と、苦笑いする。
和田さんは情シスの立場から、経営者には「経営方針のビジョンを明確にしてほしい」と言う。IT化は目的ではない。ビジョンを具現化する手段だからだ。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・データがデジタル管理されておらず、過去の紙資料を探す作業から始めなければならなかった
・業務ノウハウが属人化していて、退職するとノウハウが消えた
導入したITシステム
・建設会社向けの基幹システム「Anyone」
・クラウドストレージ「box」
・ビジネスチャットツール「Slack」
IT化後の状況
・残業や休日出勤が減りワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)が向上した
・業務が効率化され、受け持ち現場数や顧客数が増えた
・現場に紙を持ち込まず、ノートパソコンとタブレット端末で情報を管理する姿は、会社のイメージアップになった
会社データ
社名:城善建設株式会社(じょうぜんけんせつ)
所在地:和歌山県和歌山市十一番丁10番地
電話:073-427-1181
HP:http://www.jyouzen.co.jp/smarts/index/0/
代表者:依岡善明 代表取締役
従業員:39人
【和歌山商工会議所】
※月刊石垣2022年3月号に掲載された記事です。
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