鬼塚硝子は特殊な精密ガラス部品を製造している。二代目を継いだ鬼塚睦子(ちかこ)さんが後継者として入社した当時、同社は高齢化が進んでいた。鬼塚さんは新卒採用を導入し、働きやすい会社を目指して社内改革を進めている。そこには、創業者が大切にしてきた技術と理念を未来に残したいという思いが込められていた。
後継者として中途入社 周囲も歓迎し協力
東京都青梅市にある鬼塚硝子は、現会長が創業した会社で1971年に法人設立された。医療や工業分野で使用する特殊なガラス製造の技術を持ち、血液検査用のガラスセル(キュベット)が主力製品である。
先代(現会長)は、血液分析装置のキーデバイスとなる分光分析用のガラスセル(容器)の開発に挑戦。数々の試行錯誤を続け、開発と量産化に成功した。当製品は洗浄して繰り返し使用することができ、10年間利用可能なオンリーワン製品となっている。さらに、電解放出X線管も世界初の実用化に成功した。
一方で先代は、ガラス職人として大学研究室に協力してきた人脈から、その時代に求められる製品ニーズを探り、失敗を恐れず技術開発に果敢にチャレンジ。職人と科学者がうまく連携し、大手ではできないスピード感ある製品開発を実現し、日本を支える中小製造業だとして、東京商工会議所「勇気ある経営大賞」などの数々の賞を受賞した。
二代目を継いだ鬼塚睦子さんは、高等専門学校卒業後に非鉄金属大手企業へ就職して長年勤めたのち2015年、後継者として同社へ入社した。入社後2年ほどはさまざまな部署で実作業を経験しながら自社製品の掌握に努め、従業員との人間関係も築いた。従業員や取引先の担当者なども鬼塚さんを歓迎して協力してくれた。
先代の思いは変えず新卒採用など改革進める
鬼塚さんは17年、社長に就任し、先代が築き上げた素晴らしい功績を受け継いでいる。経営理念にある「1㎜の階段を日々登るように努力」は先代の言葉だ。努力することをやめたり現状維持を求めたりすれば、それは衰退である、という意味を持つ。
「自分の手でやってみて失敗や成功を繰り返し、なぜだろうと自分の頭で考える。そういうことをやってほしい」と、鬼塚さんは従業員たちに期待している。
先代が築いた功績を受け継ぎ、ものづくりに対する理念などは変えていないが、二代目となった鬼塚さんが変えたこともある。その一つが新卒採用の導入である。鬼塚さんの入社当時、従業員の高齢化が進んでおり、10年後には技術を持った従業員が引退してしまうという危惧から、若手の育成に積極的に取り組んだ。
また製造部門にも思い切った改革を行い、採算の合わない製品の製造から撤退した一方、ニーズが高まっていたガラスセルは製造数量を増やした。利益率は上がったが、鬼塚さんには葛藤があった。
「撤退したものは20年前と同価格だった製品です。取引先に値上げ交渉をしたのですが、かないませんでした」
同社のようなサプライヤーに部品を発注するのは大企業で、同社は取引先の求めに一生懸命に応じてきた。しかし、値上げにはなかなか応じてもらえないことが多いという。「それだけが原因ではありませんが、この部分の仕組みも変わらないと、日本の中小企業の賃金を上げるのは難しい」と鬼塚さんは切実な思いを口にした。
目標は100周年 技術の承継が課題
同社は21年に50周年を迎えた。現在、年商は約8億円だが、20年はコロナ禍の影響で1割減となった。5年以内に10億円にすることが直近の目標で、会社を成長させながら100周年を迎えることが鬼塚さんの将来の目標である。
これから事業承継する人に向けたアドバイスは、自分の経験を踏まえて「技術の承継」と「自社株の承継」が大きな問題と答えた。いずれも短期間にできることではなく、長期的かつ計画的に行わなければ会社の存亡にかかわる。
家業の承継者は悩みが尽きないが、鬼塚さんが支えられたのは商工会議所や経営者仲間とのつながりだった。鬼塚さんは地元の青梅商工会議所で助成金などの情報入手や士業などの紹介を受け、経営者仲間との情報交換をしている。また東京商工会議所では勉強会に参加しており、会には年配の先輩経営者が多いので、相談に乗ってもらっているという。
「急に家業を引き継ぐことになったら、商工会議所に相談するといいと思います。高度経済成長期に創業した会社なら、三代目以降に承継することになる今後がもっと大変になると思うので、商工会議所にはそこに向けた支援も考えてほしいですね」と、鬼塚さんは100年後の商工会議所の在り方についても提案する。
会社データ
社名:株式会社鬼塚硝子(おにづかがらす)
所在地:東京都青梅市今井3-9-18
電話:0428-31-4305
代表者:鬼塚睦子 代表取締役社長
従業員:52人
【青梅商工会議所】
※月刊石垣2022年4月号に掲載された記事です。
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