長引くコロナ禍により多くの食品製造・加工業者が業績の低下に悩んでいるが、一方で地域の特色を出したり、消費行動に対応したさまざまなアイデアや販売方法を駆使したりして業績を上げている食品製造業もある。そこで、コロナ禍という逆風に負けず、自社の味にこだわり奮闘している各地の“食のものづくり会社”の取り組みを追った。
県内産の新鮮な野菜や豚肉を使い手づくりの良さを生かした餃子を届ける
総務省が発表する家計調査において、1世帯当たりの購入額で毎年どの市が1位になったかが話題になるのが餃子。みまつ食品はその餃子を中心とした中華惣菜専門の食品メーカーである。コロナ禍においては人々の命綱である「食」を守るために、万全の対策を取りながら製造を続けてきた。消費者から支持されているのには、自社一貫体制や手づくりへのこだわりだけでなく、群馬県という製造拠点にもその理由があった。
製造ラインは機械化しても手づくりの部分を残す
みまつ食品は1970年、創業者で現会長の神山健さんが夫婦二人で手づくりの餃子を製造販売するところから始まった。現在では餃子100種類、シューマイ50種類、ワンタン、春巻、肉巻などのチルド食品や冷凍食品を1日平均90万個以上製造しており、関東甲信越を中心にスーパーや外食産業などに製品を供給している。
「創業当時は小さな工場で、夫婦で夕方から夜にかけて餃子をつくり、翌朝納品したら次の注文をもらって、またつくるということを続けてきました。そのころは、まちの精肉店を中心に餃子を卸していて、精肉店や青果店がスーパーに移行していくうちに販売量も多くなり、手づくりでは製造が間に合わなくなったために、機械化していきました」と、同社二代目で社長の神山光永さんは言う。
同社のこだわりの一つが、商品開発から製造、品質・衛生管理までを自社一貫体制で行っていることで、豚肉やキャベツといった主な材料は丸のまま仕入れ、自社工場内でカットしている。
「肉はブロックで仕入れて工場内でミンチにしていますし、キャベツは毎日6~7tを一つずつ人の手で半分に割って、中の芯をくり抜いています。割ってキャベツの中を見て問題がないか確認をするのも重要な作業です。また、皮も小麦粉からつくっています。味付けについても、調味料は人が量って分量を合わせ、味を確認してから投入しています。製造ラインは機械化していますが、できるだけ手づくりの部分を残して製造しています」と、神山さんは自信を込めて語る。
県内産の新鮮素材の味を最大限に生かす
同社のもう一つのこだわりが食材である。餃子の味や食感を左右するキャベツは、群馬県が出荷量全国2位。同社では県内の30軒以上の契約農家から新鮮なものを毎日仕入れている。
「キャベツは9割方、群馬県産を使っています。夏場は嬬恋から仕入れて、その後は伊勢崎、次に藤岡、次に赤城と、産地を1年間でぐるっと回っていく。同じ県内でも標高差があるので、キャベツの採れる時期は異なります。県内産で賄えない時期だけ、他県産のものを使用します。ほかにもニラやタマネギ、長ねぎも群馬県で多くつくられていて、餃子の具材となる野菜は県内で豊富に栽培されています」と神山さんは説明する。
豚肉も、群馬県は養豚が盛んで、飼養頭数は全国4位。同社では豚肉の多くを群馬県産を使用している。
「新鮮な材料は味の重要な要素なので、餃子やシューマイづくりの面で群馬県は非常に有利だと思います」
また商品開発においても常に新たな味を求め続けている。50年以上に及ぶ餃子づくりのノウハウをベースに、さまざまなリサーチを行いながら、時代のトレンドを取り入れた新商品づくりを行っている。同社が年間に開発する商品は400種類以上。顧客から依頼されて行うものと、自社で独自に開発していくものの、二つのパターンがある。
「自社ブランドの商品開発では、新たな商品や味だけでなく、主力商品が今の時代の好みにマッチするように味のリニューアルも行っています。ここ1年くらいの変化としては、代替肉の大豆ミートを使った商品の要望が増えています」
実は同社では、大豆を使ったシューマイを4年ほど前に自社ブランド商品として開発、製品化していた。しかし、このときはまだ時期尚早だったためか、この商品はあまり売れることなく販売を終了していた。
群馬でつくった餃子を日本全国に、そして世界に
もちろんその一方で、ヒット商品につながったものもある。
「それは2018年に発売した『ごろっと肉焼売』と『ごろっと海老焼売』で、中に大きめの肉やエビが入っています。味だけでなく食感も楽しめることで好評をいただき、生産を伸ばしています。これはヒット商品といっていいと思います」と神山さんは笑顔を見せる。
新商品の開発部隊は7人だが、従業員の7割以上が女性であることから、普段から家で料理をしている彼女たちに試食してもらった意見も製品開発に生かしている。そのような努力がコロナ禍でもスーパーや消費者に支持され、注文の増加につながったのだろう。
また、十数年前から廃棄ロスの削減にも取り組んでおり、それまで廃棄していたキャベツの芯のエキス化に成功。キャベツサイダーやキャベツこんにゃくゼリー、芯の食感を残した見た目がソーセージふうの餃子を開発、販売している。また、他社からの技術協力によりキャベツの芯のパウダー化にも成功しており、現在はそれを使用した新製品の開発も進めている。
そして、これからの展開について、神山さんはこう語る。
「今は販売エリアを関西に広げているところで、いずれは日本全国に拡大していきたいと思っています。海外輸出の案件もあるのですが、コロナの影響で少し停滞していたので、これからまた進めていきたいと考えています」
同社のある前橋市は、餃子の年間購入額では毎年10位前後だが、実は購入頻度では常にトップの座を争っている。そんな〝隠れ餃子大国〟の前橋市で、同社は地元産の新鮮な素材を使い、人々の暮らしを食で包んでいく。
会社データ
社名:株式会社みまつ食品
所在地:群馬県前橋市上大島町2-1
電話:027-261-2534
HP:https://www.mimatsu-grp.co.jp/
代表者:神山光永 代表取締役
従業員:約340人
【前橋商工会議所】
※月刊石垣2022年7月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!