1990年代以降、日本株式市場の低迷が続いた主な要因は経済の再生が難しかったことだ。現在、わが国には世界的な競争力を持つ先端企業が見当たらず、これを打破するために政府は規制を緩和して取り組みを増やすべきだ。特に、デジタル人材の確保は待ったなしだ。政府が経済再生に取り組み、アニマルスピリットを増やすことができるかが、長期的な国内株式市場の展開に影響を与える。
株価を上昇させるための基本的なメカニズムを理解することが大切で、理論的に株式市場全体は当該国のGDP成長率に連動する。経済成長率が高い国の株価は上昇し、市場全体の時価総額が増える。反対に、経済成長が難しいと株価は停滞する。成長するためには、新しい需要の創出に取り組む企業が増えなければならない。
各国の国内上場企業の時価総額を確認すると、成長期待の高い企業の増加が株価上昇にインパクトを持つことが実感できる。75年時点で世界の時価総額合計に占めるわが国の割合は12%で、その後上昇し、88年には世界の時価総額の40%を占めた。87年から89年まで、わが国の時価総額シェアは米国を上回った。その一方で75年から89年まで、ドイツ(旧西ドイツ)の時価総額は4%前後で横ばいだった。
80年代から90年の年初にバブルが崩壊するまで、日本経済は〝ジャパン・アズ・ナンバーワン〟といわれた絶頂期にあった。それをけん引したのが、新しい商品を生み出すアニマルスピリットだった。自動車、半導体、テレビなどの家電分野で日本企業は海外企業には模倣できない新しい製品を生み出し、世界の需要を取り込んだ。例えば、74年にホンダは〝CVCCエンジン〟を搭載したシビックによって米国の〝マスキー法〟をクリアし、米国の需要を大きく取り込むことに成功した。また、79年にはソニーが〝ウォークマン〟を生み出して世界のミュージックライフを一変させ、後の米アップルのiPodやiPhoneの創造にも大きな影響を与えた。ヒット商品は重電および総合電機メーカーの半導体事業の成長を支えた。80年代の前半、わが国半導体メーカーはDRAMを中心に世界シェアの8割を押さえ、わが国の経済成長期待は高まり、株価は上昇し、時価増額が増加した。
ところが、90年代に入りバブルが崩壊すると、日本経済は長期の停滞に陥った。まず、国内で資産バブルが崩壊して株価が急速に下がり、91年の7月ごろからは地価が下落に転じ、資産価格の急速な下落によって景気は減速し、不良債権問題が深刻化した。97年には金融システム不安が発生し、強いリスク回避の心理が経済全体に広がった。企業は正社員を削減し、非正規雇用者が増えて経済格差が拡大した。また、95年には生産年齢人口(15~64歳)が、2008年には総人口がピークをつけ減少に転じた。その結果、日本経済は縮小均衡に向かっている。
海外ではグローバル化が進み、国際分業が加速した。米国ではアップルなどの先端企業がソフトウエアの設計と開発に集中し始めた。アップルは台湾や中国の企業に製品のユニット組み立て生産を委託した。中国は安価で豊富な労働力を武器に世界の工場としての地位を確立し、台湾ではデジタル家電や半導体の受託製造に特化した企業が急成長を遂げた。
わが国に必要なのは、企業が新しい取り組みをする環境の整備だ。政府は経済の再生を急がなければならない。経済の実力が高まれば日本株全体の時価総額だけでなく、世界経済におけるわが国の存在感も増す。長期停滞から脱するために、政府はプログラミングやデータサイエンスなどの学び直しの機会を増やすべきだ。新しいスキルを習得する人の増加が事業運営の効率性の向上や、スタートアップ企業の増加に影響を与える。政府は迅速に改革を進め、既存分野から先端分野への生産要素の再配分を加速させなければならない。これが、中長期的な経済成長期待の高まりとわが国の株式市場の上昇に決定的インパクトを与える。 (5月15日執筆)
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