近年、日本各地のクラフトビールが活況だ。創業1975年、設立1982年の協同商事の「COEDO」ビールはその草分けで、世界大会の受賞歴多数、世界25カ国にも輸出している。だがビール事業撤退の危機はあった。そのテコ入れを図ったのが二代目の朝霧重治さんである。
農作物の付加価値として立ち上げたビール事業
江戸情緒あふれる蔵づくりのまち並みが今も残る埼玉県川越市。〝小江戸川越〟として観光客にも人気が高い地に、協同商事は拠点を置く。創業時は公害が深刻化する高度経済成長期で、安心・安全な農産物を提供する〝有機野菜の専門商社〟として事業を発展させてきた。今では一般的になった産地直送、生産者の顔が分かる店頭販売、選果包装加工の集約化などにいち早く着手し、日本全国に普及した実績を持つ。
「先駆的な取り組みは、全国各地から視察があったほどだと聞いています」
そう語る代表取締役社長の朝霧重治さんは、1973年生まれで、協同商事と関わるのは創業者の娘さんと学生時代に出会って以降だ。ちょうど同社で、ビール事業が立ち上がったころと振り返るが、そもそも、なぜビール事業を立ち上げたのだろうか。
発端は、農作物の連作障害を避けるために畑に緑肥としてすき込んでいた大麦の麦芽利用と、規格外で処分される特産品のサツマイモの有効活用にある。創業者の構想を後押しするように94年、酒税法が改正され、最低製造量基準が2000klから60klに大幅に引き下がると、地ビールブームが沸き起こり、全国各地で観光土産に地ビールが推奨された。同社もこの流れに乗り、製造、販売のほかに川越の郊外にビアレストランを開設すると、2時間待ちの人気を博したという。
「そのレストランで僕もバイトをしていました。物流センターで野菜の袋詰めも。人が足りないといっては彼女、今の奥さんに駆り出されていましたね」と朝霧さんは苦笑する。
義父の熱意と思想で書き換わった人生プラン
だが、朝霧さんはそのまま同社に入社したわけではない。学生時代にバックパッカーとして世界を旅し、インフラが未整備の国々を目の当たりにして重工業メーカーに就職する。「技術力のある日本ブランドを海外に輸出したい」。その朝霧さんの思いを、同社に向かわせたキーマンが創業者だ。
「非常にロジカルに物事を分析される方で、もともとリスペクトしていたのですが、心を動かされたのは、効率重視の仕組みはいずれ空洞化し、非効率の産業の時代が来る。それはワインやチーズなどの手間暇を掛けてつくるもので、ビールもその一つ。地域性と職人技を基盤とするビジネスにこそ未来があると語ってくれました」
重工業メーカーで3年勤めた後、ビジネススクールを経て海外を拠点に活動するという朝霧さんの人生プランは一変した。予定より早く経営の最前線に立てるチャンスと、アグリベンチャーの可能性に魅せられ、賭けたのである。
2003年、朝霧さんは副社長に就任すると、ビール事業の再建を任される。だが、すでに地ビールブームは過ぎ、レストランは閉店、20倍の規模に拡大していた工場は赤字続き。撤退か継続かの選択を迫られる状況下だった。
サツマイモ使用という独自性、職人技、デザインで世界を魅了
「地ビールは、醸造技術もアカデミズムも甘い点が業界全体にありました。でも自社のビールはドイツからプラントを輸入し、『ブラウマイスター』というプロのビール職人を軸とした本場仕込みの醸造技術がありました。バイオテクノロジーなどの化学分野のサポートもあり、他の地ビールとは一線を画す品質です。観光土産と化した地ビールではなく、プロダクトのクオリティーと職人道を極めるクラフトビールとして再建を図りました」
商学部出身で、ビジネスを理論的に学んだ朝霧さんは、日本で浸透していなかったトータルコミュニケーションとしてのデザインに着目し、デザインマネジメントができる外部スタッフを起用してブランドデザインを刷新する。ブランドカラーは黒に統一し、「KOEDO」は「COEDO」に変えた。ロゴのフォントにもこだわり、おいしさもブランディングも妥協しない。目指したのはビール先進国のコピーではなく日本発、川越発のオリジナルビールだ。
そして3年の月日を経た06年、プレミアムビールブランド「COEDO」を発表すると、翌年4月にはモンドセレクション最高金賞2品を含む出品5点全てが受賞し、朝霧さんが社長に就任した09年以降も世界的な賞に次々と輝く。11年には世界2大ビールコンテスト「ワールドビアカップ」銀賞、「ヨーロピアンビールスター」金賞を獲得する。国内ビール業界のベンチマークになり、ワインのテロワールのように川越という土地の魅力も世界に広がっていった。毎年10月開催の川越まつりでは、川越商工会議所をはじめまちぐるみでCOEDOを応援し、同社も9月に「コエドビール祭」を開いてまちをにぎわせている。
「コロナ禍を経て外食産業だけではなく量販店の販路拡大、さらにはエンドユーザーを意識した施策の必要性を感じました。10年単位で有機の大麦栽培を拡大し、地域の景観や観光、農業にも寄与できたらと考えています。ブルワリーが地域の個性となって100年後も地域とともに発展する企業でありたいです」
会社データ
社名:株式会社協同商事
所在地:埼玉県川越市中台南2-20-1
電話:049-244-6911
代表者:朝霧重治 代表取締役社長
従業員:119人
【川越商工会議所】
※月刊石垣2022年8月号に掲載された記事です。
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