1946年に創業した総合菓子メーカー・カバヤ食品。「おいしさ」「健康・美」「たのしさ」をテーマに、多彩な菓子類を世に出してきた同社が〝塩〟に着目。発汗で体から失われる塩分の補給を目的に開発した「塩分チャージタブレッツ」が好調な売り上げで、同社の主力商品に躍り出た。同時に、水分と塩分補給の重要性の啓発にもひと役買っている。
暑さ対策を意識して誕生した塩分補給タブレット
人間はただ座っているだけでも、1日約2・5ℓの水分を体外に排出しているという。暑い季節やスポーツ時には、なおさら大量の汗をかき、体から水分と塩分が失われる。
必要な塩分を手軽においしく補給できるのが、2009年にカバヤ食品が発売した「塩分チャージタブレッツ」だ。食塩、カリウム、クエン酸顆粒(かりゅう)、キャンディチップが配合された清涼菓子で、口どけの良い食感が特徴だ。
「塩飴(しおあめ)は昔からありましたが、溶けきるまでずっとなめていなければならず、スポーツ時など、必要な時にすぐ補給したい場合には向きません。速やかに塩分を補給できる形を考えた時、最適なものがタブレットでした」と当時、同商品の品質開発担当だった同社広報室・廣井良伸さんは説明する。
当時、熱中症の危険性が話題になり始め、水分だけでなく塩分も適切に補給しないと最悪の場合、命にもかかわるという認識が広がりつつあった。そうした中、塩粒入りキャンディが夏場に屋外で仕事をする人たちにヒットしているという状況を受け、菓子メーカーならではの商品開発をスタートした。
汗をかく人のために少しずつマイナーチェンジを重ねる
発汗量の多い夏場の使用を想定した場合、クリアすべき点がいくつかある。例えば、高温でも溶けないこと。いつでも食べられるように携帯しやすいこと。必要な塩分は補給できるが、塩味が強くならずにおいしく食べられることなどだ。
そこから配合成分や形状を固めていき、いざ試作する段階になってある問題が起こった。製造部門から、「塩を入れて大丈夫なのか?」と言われたのだ。
「塩の結晶は硬く、研磨剤の働きをして製造機械を削ってしまう恐れがあるそうです。さびの原因にもなるので、現場ではタブー視されていました。しかし、それでは商品コンセプトが根底から覆るため、どうにか説得して試作にこぎつけました」(廣井さん)
その結果、機械にはほとんどダメージがないことが分かり、開発は一気に進んだ。口の中で崩れやすくするために、あえてキャンディチップを配合。何粒も食べなくても必要な塩分を補給できるように、1粒を大きくするなどさまざまな工夫を試み、1年の開発期間を経てようやく完成にこぎ着けた。パッケージにも、塩分、糖分、クエン酸など主要成分を大きくプリントし、塩分補給を意識した食品であることを前面に押し出した。
ところが、発売後の消費者の反応は芳しくなかった。新たな販路を開拓しようとドラッグストアに売り込んだが、当初は扱ってもらえなかったという。
「期待値は高かったのですが、結果が付いてきませんでした。社内では『来年は出すのをやめようか』という話も出ましたが、『もう1年やらせてほしい』と懇願して、販売を延長することになりました」(廣井さん)
初めの数年は苦戦が続いたが、地球温暖化やそれに伴う暑さ対策への関心が高まるとともに売り上げが伸び始め、徐々に夏場の定番商品と認識されるようになっていった。
その後も毎年のようにマイナーチェンジを重ねた。例えば、配合する塩の形状や種類を変えるなど、おいしさも追求した。中でも大きく変更したのは、17年にカリウムを追加配合したことだ。
「汗で失われる成分は塩分と水分だけではありません。『塩分チャージタブレッツ』をより『汗をかく人のため』の商品とするために、さらに進化する必要がありました。そこで発汗で塩分とともに失われるカリウムを新たに加え、パッケージにも大きく表示したことはイメージの向上につながったと思います」と同社マーケティング本部カテゴリー戦略室の河村早苗さんは説明する。
家族の健康を考える40代女性の絶大な支持を獲得
同商品のメイン購買層は40代の女性で、特に家族の健康を考える母親の支持が高い。その背景には、日本学校保健会を通じて全国の幼稚園から高校までの学校に対してサンプル配布を行ったり、「熱中症ゼロへ®」プロジェクトを通じ、全国自治体のイベントでサンプリングを行ったりするなど、子どもたちを中心に汗をかいた時の塩分補給の重要性について周知してきたことが挙げられる。
そうした地道な活動により、現在では夏場や運動時だけでなく、〝汗をかいた時の必需品〟という意識がユーザーに根付いてきた。その結果、21年度の売り上げは発売当時と比較して約100倍に増えており、今や名実ともに同社の稼ぎ頭となっている。コロナ禍では在宅時間の増加により、多少の売り上げ減はあったものの、市場シェアナンバーワンを維持しており、シェア率も落としていないという。
「この商品は長雨など、気候変動の影響が売り上げを左右します。ただ、ユーザーに塩分補給に対する意識が定着しているので、さほど心配はしていません」と廣井さんは説明し、河村さんはこう続ける。
「現在、日本学校保健会の推薦用品になり、日本気象協会の『熱中症ゼロへ®』オフィシャルパートナーにも認定されています。今後も塩分補給の大切さを、さらに多くの人に伝えていきたいです」
会社データ
社名:カバヤ食品株式会社
所在地:岡山県岡山市北区御津野々口1100
電話:086-724-4300
代表者:野津基弘 代表取締役社長
設立:1946年
従業員:721人
【岡山商工会議所】
※月刊石垣2022年8月号に掲載された記事です。
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