武雄温泉駅(佐賀県武雄市)と長崎駅(長崎市)を結ぶ西九州新幹線が2022年9月23日開業する。長崎・博多間の所要時間は、乗り換え時間も含めて最速約1時間20分、始発となる武雄温泉駅と長崎駅はわずか23分でつながる。人口減や経済の停滞に悩む西九州各地の地域活性化への起爆剤として期待は大きい。西九州新幹線開業直前、沿線の商工会議所の会頭・副会頭に取り組みについて聞いた。
県内人口増加率第1位のまち 新幹線開業でさらなる魅力を引き出す
長崎県の中央に位置する大村市。長崎空港を擁し、県の玄関口という機能を果たしてきた同市だが、これまで長崎市や佐世保市などへの経由地という側面が強かった。それだけに今回、西九州新幹線開業を機に人流を増やし、活気あるまちづくりを目指して、官民一体となりさまざまな取り組みを展開している。
素通りのまちからストーリーのあるまちへ
都道府県別人口減少率で毎年上位にある長崎県にあって、大村市は50年以上連続で人口が増加している人気のまちだ。長崎空港を擁し、高速道路のインターチェンジが2カ所ある交通の要衝で、各主要都市へのアクセスも便利なことから、ベッドタウンとして発展してきた。現在でも新興住宅や大型マンションの開発が進んでいる。このような同市に、新たに新幹線がやってくる。
「自然が豊かで住みやすい上に、子育て支援も充実しているので、比較的若い世代も多い。今回の新幹線開業を、さらなる人口増とまちの活性化の起爆剤にしたいと考えています」と大村商工会議所の時忠之副会頭は率直に期待を口にする。
同所では2015年より、市と連携して「大村市新幹線まちづくり推進協議会」を設立し、新幹線開業を生かしたまちづくりに向けた取り組みを展開してきた。そのスローガンが「素通りからストーリーのあるまち・大村」だ。同市は住みやすさと交通の利便性を兼ね備えているものの、残念ながら人がわざわざ訪れる〝何か〟があるまちではない。空港に到着する人のほとんどは長崎方面か佐世保方面に向かい、大村を素通りしてしまう。
「確かにこれという観光資源があるわけではありませんが、それは地元にいるから気付いていないだけかもしれません。まずは私たちがまちの魅力を再点検して、それを念頭に置いた取り組みを進めることにしました」
隠れた食材を発掘してメニューや土産物に
〝ストーリー〟の要素で重視したのは「食」だ。同市は水産物のほか、フルーツをはじめとする農産物が豊富だが、これといった特産品に乏しい。新幹線開業を見据えた観光土産品の開発は必須だ。そのためにひと役買ったのが、同所が長年開催してきた「おおむらじげたまグランプリ」。地域に愛される大村発の新商品を応援することを目的に、2年に1度行っているものだ。ここから数々のメニューや加工品を生み出してきたが、10回目となる昨年は新たに新幹線土産賞を創設。さまざまな応募品の中から、特産品のピーナッツを使った「大村こつぶピーナッツひらいてくっきー」が受賞し、商品化を果たした。
「もともとまちの活性化を目指したイベントですが、新幹線開業に向けて大村の魅力を全国に向けてPRする上で食の要素は欠かせません。この商品に限らずさまざまな観光商品を開発し、グルメフェアや祭り、イベントなどを通じて広く発信しています」
また、19年から同所青年部(大村YEG)が主体となり、新幹線開業PRイベント「MORIZONO COLOR」を開催してきた。会場は海に面した森園公園で、そこから橋の向こうに空港も一望できる。魅力あるスポットを広く発信するとともに、市民にも新幹線開業を実感してもらおうというものだ。開催を重ねるごとに認知度も上がり、延べ1万3000人が来場。昨年は、昼間の各種アトラクション、大村湾に沈む夕日やイルミネーション、ライトアップなど、大いに盛り上がりを見せた。
今年に入ってからは、ユーチューブでの動画配信や、地元ケーブルテレビやFM局などを通じてプロモーションを展開。新幹線開業への機運は高まりを見せているという。
まちを盛り上げてフル開業への弾みにしたい
地道なPR活動は市民だけでなく、密かに鉄道ファンの期待も集めている。今年5月に開始された試験走行に、予想を超える人が集まった。
「今回開業する武雄温泉から長崎までの約66㎞のうち、その60%に当たる約40㎞はトンネルです。実は、外を走る区間が比較的長いのが大村なんです。ある鉄道ファンの方が絶好のビューポイントを見つけて、大村湾をバックに走る新幹線を撮影した写真があるのですが、お世辞抜きに本当に美しい1枚です。『かもめ』に乗って大村に来れば、こうした風景が堪能できます」
開業を控え、新大村駅舎や在来線に新設された大村車両基地駅、その間に広がる新幹線車両の検査や整備を行う大村車両基地が完成している。現在、新幹線駅周辺の商業施設などの建設が急ピッチで進められており、新たにここを訪れる人がわざわざ立ち寄りたいと思うような、ここにしかない商業エリアにしたいと時副会頭は力を込める。
「駅周辺施設は25年に完成を予定しています。今はまず新幹線開業という1度目のうまみで、まち全体を盛り上げたい。まだ武雄温泉と長崎間の部分開業ですが、新幹線効果でまちが活気に満ちているという状況を生み出して、早期のフル開業に弾みをつけることが私たちの仕事。フル開業が実現したときには、2度目のうまみで人流を増やし、さらなるまちのにぎわいにつなげたいです」と期待を込めて未来図を語った。
会社データ
大村商工会議所
所在地:長崎県大村市本町458-2
電話:0957-53-4222
※月刊石垣2022年9月号に掲載された記事です。
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