福島県を中心としたリコー製品の画像機器全般の販売とサポートなどを行う東北コピー販売は2015年以降、段階を踏んで社内システムをクラウドに移行。自社のクラウド導入と活用のノウハウは、顧客企業のIT化支援にも生かされ、「全国中小企業クラウド実践大賞2021」の東北総合通信局長賞を受賞した。
東日本大震災を機にクラウド化を決断
2005年、現社長の高橋剛さんは東北コピー販売(福島県福島市)に入社してがくぜんとした。顧客のIT化を支援する立場なのに、社内のIT化が驚くほど遅れていたからだ。
「10人ほどの営業担当者が1台のパソコンを共有して仕事をしていました。社内サーバーは、ファイル管理をするファイルサーバーと基幹系システムのサーバーの2台あったのですが、誰も管理していない状態でした」
高橋さんはまず、全社員がパソコンを扱える環境をつくり、サーバーを6台に増やし、文書管理などができるようにした。IT化は一歩進んだが、メンテナンスは高橋さんに任され、負荷は増える一方だった。電源を落としたサーバーが立ち上がらなくなるというアクシデントも経験して、社内にサーバーを置くオンプレミス(ハードウエアとソフトウエアを自社で保有・管理する運用形態)に疑問を持つようになった。
「早々に改善しないといけないと考えていたときに東日本大震災が起こり、サーバーが吹っ飛びました。この体験がきっかけとなってクラウド化の決断をしました」
クラウド化すれば、社内にハードやソフトを持たずとも、インターネットを通じて、必要なサービスを必要な時に必要な分だけ利用できる。ソフトは常に最新のバージョンが提供される。データはクラウドに保存されるので災害にも強くBCP(事業継続計画)対策としても有効だ。
15年、高橋さんが社長に就任すると、全てのシステムをクラウドに移行する方針を打ち出した。表は同社が導入した主なクラウドの一覧だ。
第1フェーズでは、「仕事を楽にする」ためのクラウド活用を目指し、①情報共有、②コスト削減、③クラウドファーストの三つの観点に沿ってクラウド化を進めた。
第2フェーズでは、これまで蓄積した情報を積極的に活用することで「仕事を楽しくする」という目的を持って、さらなるクラウドの導入や活用の深化を図った。
IT導入はトップが決断し号令を掛ける
IT導入を検討する時、経営者はコスト増を懸念するが、高橋さんはクラウドではあまり心配しなくていいと話す。
「多くのクラウドには無料のお試し期間が設定されているので、自社の業務との適性を評価することができます。また当社では、月額5000円かかるクラウドを導入するのなら、他でかかっているコストを5000円削り、コストの増加を抑えるというルールを設けました。ソフトを買い取るわけではないので、導入してうまくいかなければやめればいいのです」
では、IT導入はトップダウンで進めるべきか、現場の意見を聞いてボトムアップで進めるべきか。高橋さんは、多くの顧客企業のIT導入を支援した経験からこうアドバイスする。
「IT導入の大号令はトップが掛けた方が早く動き出します。導入の旗振り役には業務全体を理解している人を充てる。そして役割分担は社員としっかり話し合って決める方法がいい」
社員の中にはクラウドの利用に後ろ向きの人もいる。しかし、利用しないでいると社員間で情報格差が生じ、そのことに気付くと利用するようになる。そしてみんながクラウドを利用するようになると、再び情報格差が生まれる。
「それは、情報の分析・活用の仕方の差です。上手に分析・活用できる人は、よりよい提案ができるようになるのです」
そのような情報格差は、会社として好ましいことではないので、高橋さんは「お互いに教え合うことで会社全体の提案力が上がり(競争優位に立てる)、顧客満足を高め、業績に反映され、その利益は社員に還元される」ことを機会あるごとに話し、社員の意識を変えた。
同社は7年かけて蓄積したクラウド運用ノウハウを活用し、東北企業のDXを支援する。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 社内のパソコンがほとんど利用されていなかった
・ 社内に置かれた自社保有のサーバーは放置同然だった
・ BCP対策が脆弱(ぜいじゃく)だった
導入したITシステム
・ サイボウズkintone
・ PCA商魂DXクラウド
・ クラウドテレコム モバビジなど
IT化後の状況
・ 顧客情報が各部門で共有され顧客満足度が向上
・ 脱押印、脱FAXにより紙を20%(2019年9月と20年9月の比較)削減
・ 固定電話を廃止したことで、どこでも会社にかかってきた電話を受けられるようになった
・ 災害時でも大切なデータが守られるようになった
会社データ
社名:東北コピー販売株式会社
所在地:福島県福島市御山一本松13-5
電話:024-559-0245
HP:https://t-copy.co.jp/smarts/index/0/
代表者:高橋 剛 代表取締役
従業員:15人
【福島商工会議所】
※月刊石垣2022年10月号に掲載された記事です。
〈お知らせ〉 日本商工会議所などで構成するクラウド実践大賞実行委員会は10月12日から、「全国中小企業クラウド実践大賞 地方大会」を、オンラインで無料配信する。
詳細はコチラから ▶ https://cloudinitiative.jp/audience
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