日本・東京商工会議所はこのほど、中小企業の海外展開を後押しする提言書「地政学リスク、ウィズコロナ時代における中小企業の海外ビジネス促進に向けて」を取りまとめ、公表した。提言では、中小企業または地域一体となった海外ビジネスへの挑戦を後押しする施策や、国際競争力強化につながる支援などの必要性を指摘。今後、提言書を政府など関係各方面に提出し、提言内容の実現を強く働き掛ける。
提言では、厳しい経済環境の中で中小企業が生き残り、成長を続けていくためには、「経営者自身が時代の変化に合わせ『世界で稼ぐ』という強い決意と覚悟、リスクテイクの姿勢を持つことが求められる」と指摘。中小企業の海外へのチャレンジに伴う課題や不安を低減するために、政府や関係支援機関などにおいて重点的に取り組むべき支援策などを示した。
「海外ビジネスへの取り組み支援」では、「現地市場の具体的な情報の提供」「現地市場動向や現地トラブル・対応事例の提供、各機関の支援施策をワンストップで得られる仕組みの整備」の必要性を強調。また、現地市場ニーズ・規制に即した開発・改良、設備投資、マーケティングなど、海外市場で通用する商品・サービスの創出、販路拡大に向けた取り組みを支援する専門家などからの提案型支援の拡充も求めている。
「取引先紹介と信用照会」に関しては、海外企業の実在確認や信用情報、取引実績などを中小企業が確認しやすい環境整備のほか、内外の金融機関や民間信用調査機関利用時の費用助成などを要望。「越境ECのさらなる活用推進による海外販路の拡大」に向けては、海外ECバイヤーの拡充、ジェトロや中小機構の各種支援施策の一層の充実、越境ECテストマーケティング事業の拡大などを求めている。
「人材の確保、育成への支援拡充」については、海外ビジネスを体系的に修得できる教育プログラムの提供・拡充を要望。ABICなどの海外ビジネスの知識を有する国内人材と企業を効果的にマッチングする機関の活用推進の必要性も指摘している。
国際競争力強化につながる経済安全保障やサプライチェーンへの対応については、調達網見直しの際の相談体制の整備・拡充、見直しにかかる各種リサーチ費用への助成、備蓄強化のための在庫積み増しに対する無利息融資制度などの金融支援の強化などの必要性を指摘。経済連携・投資協定については、具体的メリットも含め、中小企業への周知強化、活用促進を求めている。カーボンニュートラルに向けた取り組みの支援については、カーボンニュートラルに関する情報提供、専門家による指導や簡便なツールの提供による排出量計測・把握の支援、省エネ・脱炭素型設備導入などへの資金面での支援の拡充などを要望している。
地域の事業者同士の連携推進に向けては、地銀、地域商社などによる海外ビジネスへの取り組み事例の共有の必要性を指摘。地域産品の越境ECへの共同出品、プロモーションなどへの支援拡充を要望している。
また、地域一体となった海外ビジネス支援体制強化に向けては、ジェトロ、中小機構、JICA、地方銀行など支援機関の各地拠点と商工会議所との連携促進の重要性を指摘。身近な支援機関である商工会議所のスキル向上に向けた研修会開催、海外展示商談会やマーケティングなど商工会議所への支援強化も求めている。
日商と各地商工会議所の取り組みについては、「海外展開イニシアティブ」のさらなる推進を通じ、ワンストップでの相談対応が可能となるよう、ジェトロ、中小機構、JICA、地方銀行などの支援機関の各地拠点と商工会議所とのさらなる連携促進の重要性を指摘。地域産品の共同出品や越境ECテストマーケティング事業などの推進、地域一体で海外ビジネス促進に取り組む商工会議所への支援(専門家派遣、ブランド戦略検討やプロモーション、展示商談会や海外視察会、マーケティング実施など)の強化に加え、各地商工会議所職員を対象とした研修会の提供などにも取り組む考えを示した。
商工会議所の役割については、「海外ビジネス支援の『かかりつけ医』として、企業からの相談を親身になって受け止め、課題を整理し、必要に応じて関係機関と協力しながら対応していくことが求められる」と強調。専門的知見を持つ機関との連携円滑化に向けた仕組みづくりの必要性も指摘している。
詳細は、https://www.jcci.or.jp/news/jcci-news/2022/1020130005.htmlを照。
地政学リスク、ウィズコロナ時代における中小企業の海外ビジネス促進に向けて【提言】
(主な項目)
Ⅰ.中小企業が海外ビジネスにチャレンジするためのさらなる後押しを
1.海外ビジネスへの挑戦を後押しする情報の拡充
2.海外販路開拓の加速に向けた環境整備
3.海外ビジネスに対応できる国内外人材の確保、育成への支援拡充
4.海外ビジネス(進出後・撤退など)に伴う各種課題への支援体制強化
Ⅱ.グローバル経済環境での競争力強化に向けたさらなる支援を
1.原材料などの安定的な調達環境の確保
2.経済連携協定・投資協定の拡大と活用促進、経済安全保障の確保
3.国際サプライチェーンでの競争力強化に向けたカーボンニュートラル、人権対応の推進
Ⅲ.地域一体で海外ビジネスに挑戦する後押しを
1.地域における輸出機能強化への支援
2.地域の事業者同士の連携による海外ビジネスへのチャレンジに対する支援
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