10月30日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ南部のへルソン州での苦戦にもかかわらず、東部と南部の4州を国際法に違反した住民投票でロシアの自国領に編入した。彼はこの戦争を祖国防衛戦争に位置付け、30万人の予備役を招集して1週間前後の簡単な軍事訓練で最前線に投入している。
▼以前、ウクライナのゼレンスキー大統領は2月24日以降に占拠された地域の奪還を目指していた。しかし、今や同国国会はテロリストと決めつけたプーチン氏とは交渉しないという決議を行い、クリミア半島の奪還までが国民の悲願として戦う意思を示した。一方で、プーチン氏は終始一貫、ウクライナ国民の士気をくじくために電力施設などのインフラ施設に対しての執拗な爆撃を繰り返している。
▼現在、南部のへルソン市の攻防戦で、イーロン・マスク氏のスターリンクの衛星情報と組み合わせた米国製のハイマース精密誘導弾によってロシア軍やロシアの弾薬庫の破壊が進んだ。その結果、冬の泥ねい期でウクライナ軍の攻撃も若干緩んでいるが、ロシアの精鋭部隊が劣勢に立たされている。
▼プーチン氏の戦術核の脅しに対して米国は「応分の軍事力で対応する」とくぎを刺している。そのため、プーチン氏は核を実際に使用できないだろう。また、ロシアは盛んにウクライナが汚い爆弾を準備していると宣伝しているが、これはロシアのお得意の偽旗作戦の臭いもする。
▼現段階では、残念ながら両国とも停戦交渉に踏み出せる状況にはない。また、米国の中間選挙で共和党が下院選挙で勝利した場合にウクライナの支援が滞る懸念も出てきた。来年、日本はG7の議長国となるが、わが国の外交手腕が試される。 (政治経済社会研究所代表・中山文麿 11月9日執筆)
最新号を紙面で読める!