長引くコロナ禍や円安状況、中小企業にとっては逆境が続いている。しかし、小さくても特定の分野において国内はもとより世界でもトップシェアを維持している会社がある。独創的な発想による製品開発からトップシェアを維持し続けるグローバルニッチトップ企業の世界戦略に迫る。
船用液化ガスタンクプラントで世界トップシェアの技術を活用
香川県高松市にある泉鋼業は、小型輸送船用のガスタンクプラントに関して世界トップシェアを誇っている。累計建造実績は約 450基を超え、グローバルニッチトップとしての地位を確立している。海上輸送の過酷な条件に耐える高い品質と、ガスタンク用の特別な鉄板を加工する熟練の技術を持つ同社は、その技術を生かしてさまざまな特殊構造物をつくり上げている。
特殊鋼材加工の熟練技術 過酷な条件に耐える高品質
泉鋼業のある高松市は、潮が緩やかで天候も安定した瀬戸内海に面しており、近隣には造船所が立地している。同社は1961年に親会社である鋼材問屋の子会社として、その鋼材加工を主な目的に設立された。同社の主力製品になっている船用液化ガスタンクは、当初は下請けで製造していた。しかし先代が「付加価値の高い事業で利益を上げたい」と技術開発に着手した。当時、タンクは製造できたが、ポンプや計器などガスをハンドリングするプラント部分の技術は全くなかった。大手重工の力を借りて研究開発し、72年に自社ブランドとしての製造を開始した。
「親会社が問屋なので、お客さまである取引先と競合しないようにと考えた結果が、手間のかかるタンクの製造でした」というのは、三代目で現社長の富家孝明さんである。
船用液化ガスタンクプラントは、高圧で液化した石油ガスを海上輸送するためのもので、同社では国内や近海輸送で活躍する小型船用のタンクプラントが主力である。海上輸送ではタンクや荷役装置が振動や波浪で激しく揺れる上、貨物の温度や圧力により収縮膨張を繰り返す。このため、過酷な条件下で耐え得る品質の高さが要求される。また、積載貨物の液化ガスには多くの種類があり、適切な保管とハンドリングが行えるプラントとして設計する必要がある。
タンク製造の技術は非常に特殊である。通常は板厚が6㎜程度で溶接は1回で済むが、タンク用の板は50~60㎜と分厚く、何層にも溶接を繰り返さなければならない。タンクの形は曲線が多い枕型で、鉄板の加工にも熟練した技術がいる。高度な技術が必要なため、タンクを製造できるのは国内で2~3社のみだという。
「当社は世界シェアを取るためというよりは日本一を目指していました。日本は小型船の造船技術が強いので、結果的に世界一になりました」と富家さんは語る。2001年、同社は小型輸送船用ガスタンクプラントで世界トップシェアとなった。業界では「タンク=イズミスティール」というイメージが付き、世界中から発注が来ている。
また、同社ではタンク製造で培った高度な技術を用いて、ダムや河川の水門、洋上作業台、特別な鉄骨を使った社殿建築など特殊な鋼材を使った構造物も手掛けている。
独自技術で「グローバルニッチトップ100選」に選定
同社では受注した製品の製造だけでなく、設計からアフターサービスまで一貫して行う。
「私たちの仕事は船主や造船会社の協力がなくては成り立ちません。顧客の新たなニーズを捉えて、それにチャレンジして応えていきます」と富家さん。近年は輸送効率を上げるためタンクの大型化が求められており、同社では容量拡大に向けた技術を開発した。17年には世界最大容量圧力式13000㎥(2タンク)の実現にも成功した。こうしたことが評価され、20年に経済産業省「グローバルニッチトップ100選」に選定された。
アフターサービスも大切にしている同社だが、20年から続くコロナ禍では大きな影響を受けている。海外へ行ってメンテナンスができず、現地の協力会社に依頼するなどした。営業のための海外出張や海外からの来客回数も激減したが、数カ月前からコロナ禍前の状態に戻りつつあるそうだ。
今年の夏から続く急激な円安も、同社にとっては影響が大きい。海外の船主には日本の船を買うチャンスと捉えられている一方で、国内では鉄板が高騰したため、国内で運航する船の船主には厳しい状況である。同社では年間10~20基のタンク製造のうち、国内用は平均4基で海外向けの方が多いが、海外から輸入する部品なども多いため、一概に円安が追い風とはいえないという。
地球温暖化対策としてLNG燃料供給システム
現在、同社はエンジンメーカーと協力してLNG燃料供給システムを開発中である。地球温暖化対策として、重油に代わり天然ガスが船舶用燃料として実用化されているためである。造船所からタンクの大量発注の動きもあるが、世界情勢による影響が大きいため、富家さんは注視しているという。
「LNG用タンクに注目が集まり、一気にマーケットが広がった感じもしますが、当社の本流であるLGPにも今までと変わりなくニーズがありますので、粛々とやっていきます」。堅実に事業を進める姿勢が世界一たる理由かもしれない。
会社データ
社名 : 泉鋼業株式会社(いずみこうぎょう)
所在地 : 香川県高松市朝日町5丁目2番3号
電話 : 087-822-1181
HP : https://www.izumi-steel.co.jp/
代表者 : 富家孝明 代表取締役社長
従業員 : 160人
【高松商工会議所】
※月刊石垣2022年12月号に掲載された記事です。
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