長引くコロナ禍や円安状況、中小企業にとっては逆境が続いている。しかし、小さくても特定の分野において国内はもとより世界でもトップシェアを維持している会社がある。独創的な発想による製品開発からトップシェアを維持し続けるグローバルニッチトップ企業の世界戦略に迫る。
唯一無二の半導体製造技術で世界シェアNo.1企業に
岡山市に本社を置くタツモは、半導体製造装置、液晶製造装置、各種運搬装置、精密金型・樹脂成型品などを主力とするメーカーだ。特に、液晶用カラーフィルター製造において、基板に薄膜を均一に塗布する技術や、半導体製造では薄型基板の仮接合・剝離技術において世界トップシェアを誇り、早くからグローバルで高い評価を得ている。
必要に迫られて磨かれた半導体製造技術
タツモは、半導体製造プロセスに欠かせない技術において、長年世界トップシェアをひた走っている。
同社は、1972年に電子機器部品の製造と設備の修理で設立した。電子機器をつくる過程で半導体製造プロセスを扱うことから、程なく半導体製造用全自動レジスト塗布装置を開発した。これは半導体の基板(ウェーハ)に、レジストと呼ばれる写真の感光剤のような液体を塗る装置だ。薄い円形のウェーハにレジストを滴下し、回転の遠心力を利用して均一に広げる仕組みだ。
「当時は米国製のレジスト塗布装置が主流だったんですが、しょっちゅう故障しましてね。でも米国からは修理に来てくれないので、自分たちで直すために構造を勉強し、やがて独自のレジスト塗布装置をつくりました。それが当社の開発の始まりです」と同社社長の池田俊夫さんは振り返る。
独自の技術とアイデアで、次に世に出したのが6インチウェーハ対応半導体製造装置だ。半導体は何層にもなっていて、層と層の間に電気を通さない絶縁材料を塗る。そこにレジスト塗布技術を応用した製品で、初めて世界シェアナンバーワンとなる。
「装置自体は特に難しい構造ではないんですが、回転の遠心力を使うためにどうしても微細なごみが飛び散り、それが回路に再付着すると不良を起こしてしまうんです。その点、当社製品は不良を起こさなかったので、世界中の半導体メーカーが買ってくれました」
他社がまねできない技術でオンリーワンを次々と開発
次に注目を浴びたのは、89年に開発した液晶用カラーフィルター製造装置だ。カラーフィルターは液晶画面に色をつくり出す要となる部品で、光の3原色はカラーレジストによって構成されている。ところが、四角いガラス基板に回転の遠心力を使ってカラーレジストを塗ると、風の干渉を受けて四隅にムラができてしまう。そこで同社は四角いガラス基板を密閉空間に入れ、その空間ごと回転させて塗るという新しい技術を考案。これなら四隅にムラが発生せず、異物の混入もなく、極薄膜を均一に塗布できる。
「当時、真空を用いた塗布技術が普及し始めていて、世界が新しい技術に切り替わっていくだろうと感じていました。その流れの中で新製品開発に乗り出しましたが、当社は真空ではなく別の仕組みをつくろうと。それで液晶用カラーフィルターに着目し、カラーレジストをひたすら薄く、均一に塗布する技術を突き詰めていった結果、世界が求めるオンリーワンの製品になりました」
その後も同社は、液晶サイズの拡大に伴って大きくなるガラス基板に対応するため、テーブルを移動させながら高精度ノズルでカラーレジストを塗る新たな技術を開発していく。2000年を過ぎたころから、米国、中国、ベトナムなどに海外子会社を設立し、積極的に海外市場に展開していった。
さらに近年では、半導体製造プロセスにおいてウェーハの薄型化が進んでいることを受け、ウェーハとガラスなどの支持体をいったん貼り合わせ、工程終了後に剝離する仮接合・剝離の技術を開発した。加工に耐えるほど強く貼り合わせたウェーハを壊さずに剝がすのは至難の業だが、それを可能にした同社の貼合・剝離装置も世界トップシェアを誇る。
製品だけでなく会社のブランディングにも注力
このように各国の大手半導体メーカーが導入する製品を次々に開発してきた、その源泉はどこにあるのだろうか。
「ものづくりで大事にしているのは顧客の声です。私はもともと技術畑の人間で、製品のセットアップで取引先に行くと、『ここがもう少しこうなったら使いやすくなるのに』などと注文を付けられたり、不良の修理に行くと痛いところを突かれたり。そうした生の声を次の開発に生かしたいので、顧客とは直接取引することにしています」
その姿勢が最も奏功したエピソードがある。世界の頂点に立つ半導体メーカーが同社製品を知らぬ間に検証して、改良点をいくつもフィードバックしてきたという。その通りに直していったら唯一無二の製品になり、晴れてそのメーカーに採用された。それがお墨付きとなり、絶大な広告効果を発揮しているという。
「ここ10年ほど力を入れているのは会社のブランディングです。ブランド力がないと振り向いてもらえませんからね。顧客は装置のことは知っていても、当社や私のことは知りません。そこで国内外を問わず私自身が営業に回り、積極的に相手企業のトップと交流するようにしています」
今後、さらなる海外展開を視野に、海外子会社の強化と国内研究開発体制の充実を図りたいと話す池田さん。世界トップシェアの座はこれからも盤石のようだ。
会社データ
社名 : タツモ株式会社
所在地 : 岡山県岡山市北区芳賀5311
電話 : 086-239-5000
HP : https://tazmo.co.jp/
代表者 : 池田俊夫 代表取締役社長
従業員 : 354人
【井原商工会議所】
※月刊石垣2022年12月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!