10月初旬、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は、「世界経済の3分の1が来年までに2四半期連続のマイナス成長(景気後退)に陥る」と警鐘を鳴らした。米国の9月の雇用統計では、非農業部門の雇用者数の伸びが8月から鈍化した。製造業に加えてIT、金融で雇用が徐々に減少。IT関連産業は、リーマンショック後の米国の雇用改善に決定的に重要な役割を果たしてきたが、ここへ来てモメンタム=勢いが減速しているようだ。米国のFRBは、2%のインフレ目標に向かって金融引き締めの強化は不可避だ。今後、一段の金融引き締めによって米金利は上昇し、個人消費にもブレーキがかかることが懸念される。それに伴い、企業業績は想定以上のペースで悪化する可能性が高まる。
足元で、最も状況が厳しいのはユーロ圏をはじめとする欧州経済だ。ウクライナ危機によって、ロシアからの天然ガスの供給が止まりエネルギー価格は高騰した。それに伴い、社会活動の維持に不可欠な電力供給が急減。電力料金や食料品の価格上昇は止まらない。ドイツでは8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比45・8%、9月の消費者物価指数(CPI)は同10・9%(EU基準のHICP、速報)上昇した。物価急騰によって家計の苦しさは急上昇し、各国でストライキが頻発している。
また、中国の景気後退リスクも上昇している。不動産バブル崩壊によって、経済全体で不良債権が増えている。デフォルトの急増から逃れるため、海外投資家は中国から資金を引き上げ、資産価格の下落リスクは上昇している。個人消費の回復も鈍い。建国以来最悪といわれるほど、中国の雇用・所得環境の厳しさは増している。世界のGDPに占める米国のシェアは約24%、ユーロ圏は15%、中国は18%だ。仮に三つの経済が同時に景気後退に陥れば、世界の57%が景気後退に陥ることになる。IMFのゲオルギエバ専務理事の発言は、それなりの説得力のある警鐘といえるだろう。
もう一つ懸念されるのは金融市場の動向だ。欧州では大手金融機関の経営不安が高まっている。これから、FRBやECBの金融引き締めによって金利はさらに上昇し、株価が一段と不安定化する可能性は高まる。それによって世界的に金融システム不安のリスクが伝染することも考えられる。低金利環境の長期化観測の高まりを背景に、資金が流入した米ジャンク債券の価格が急落するリスクも高まっている。米・欧・中の景気後退懸念は一段と高まりやすい。そうした展開が現実になると、主要国の個人消費、設備投資、貿易取引は追加的に減少するはずだ。一方、景気や物価高騰対策のために財政支出は増えるだろう。物価上昇と財政悪化リスクの高まりで、主要国の金利には一段と上昇圧力がかかりやすくなる。脱グローバル化も重なり、世界全体で経済運営の効率性は一段と低下するだろう。
わが国は、人口減少やデジタル化の遅れなど複合的な要因で、自律的に景気回復を目指すことは難しいかもしれない。海外来訪者の制約が解かれたとはいうものの、短期的なインバウンドの回復も期待しにくい。わが国の主力の自動車産業は、車載用の半導体不足によって生産計画が下方修正されている。わが国企業は先行きのリスク管理体制を強化しつつ、成長期待の高い分野にヒト、モノ、カネを再配分して新しい需要創出を急ぐ必要がある。政策当局はそうした企業を支援するため、環境整備を早急に行うことが求められる。残念ながら、当局の持続的な成長を目指す動きは一部にとどまっているように見える。また、企業部門でも、大手自動車メーカーにおけるエンジンデータの不正問題が明らかになった。状況は深刻といえるかもしれない。
IMFの警鐘のように、世界の3分の1が景気後退に追い込まれると、わが国にも連鎖反応として景気後退のリスクが高まる。世界経済の先行きは一段と不透明感が強まっている。わが国経済にも、下押し圧力がかかる恐れは一段と高まっていると考えられる。 (10月13日執筆)
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