国は社会資本の整備の担い手である建設業の生産性向上と働き方改革を進めるため2016年、全ての建設生産プロセスでICTなどを活用する「i-Construction※」の旗を揚げた。歩調を合わせて、宮城県石巻市の丸本組はドローン活用を手始めに、積極的なICT活用に乗り出し、東北地方の旗振り役になっている。
経営主導のICT導入 第一歩は組織づくり
国土交通省が建設現場にICTを導入し、魅力ある現場を目指す取り組み「i-Construction(アイ・コンストラクション)」推進を宣言した2016年歩調を合わせて、丸本組(宮城県石巻市)のICT導入の取り組みが始まった。同社の場合、デジタルは会社の基礎である施工技術をさらに高めるツールという位置付けだ。
社長の佐藤昌良さんは、当時をこう振り返る。「ドローンをいち早く導入し、それを核にしてICT導入を進めていこうと考えました」。ドローンから始めたのは、同社が目指す「空から見える、いい仕事。」を施主に実感してもらうためだ。それから6年が経過したが、宮城県建設業協会石巻支部長でもある佐藤さんは「経営者のICTに対する考え方に温度差がある」と受け止めている。
同社の場合は、経営者(佐藤さん)がICTに理解があり、副社長を中心とする組織横断型の「生産性向上委員会」を16年時点で発足させたこと、委員会は議題に対してきちんと答申を出したこと、それを受けて専門知識を持つ技術支援部長の山岸邦亘さんが、社内に向けてICT化・DXが企業の生産性向上や働き方改革に貢献することを発信し続けたことで、いち早い対応ができた。佐藤さんと山岸さんとの間に、課題に対する共通の認識を持っていたことも成功の一因だ。
さらに佐藤さんは「経営の考えを社内に浸透させるためにはスローガンが必要」と考え、21年から、社員が自ら提案して働く環境へ生まれ変わることがコンセプトのスローガン「リボーンワーク」を掲げ、ICTも含めたさまざまな社内改革に取り組んだ。
21年のICT関連のリボーンワークの例では、総合気象GIS(地理情報システム)プラットフォームを導入し、社員全員が気象情報を共有する仕組みをつくった。このシステムを使うと雨・雷・気温・風向風速・天気・地震・台風・河川洪水などの情報を即座に知ることができる。「東北地方は大きな災害に見舞われました。だからこそ、いち早く正確な気象情報を知る仕組みを持つことが重要だと考えたのです」と佐藤さん。
国土交通省が「生産革命のエンジン」と位置づけて導入を推進しているBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling,Management)導入にも取り組んでいる。国土交通省によればBIM/CIMは、生産性を低下させている要因となっている2次元(2D)の紙の図面の作業を3次元(3D)立体化し、計画、測量、設計、施工、維持管理など全体に3次元モデルを導入することで情報共有を容易にし、建設生産・管理システムの効率化・高度化を図る取り組みだ。そして、「将来的には、3次元モデルの変更を行うと予算がこう変わるというところまで示せると思います」と山岸さん。
現場の安全と効率化を実現するICTを導入
そして22年6月、同社は映像解析によるソリューションを提供するトライポッドワークス社(仙台市)と共同で、AIにより施工実績や生産性の定量的な把握を可能にする分析ツール「AI解析×施工実績ソリューション:AIダッシュボード」を開発した。施工実績は施工管理を行うための重要な指標だが、その基礎となる材料・労務・機械などの工数は人手で収集・記録してきた。AIダッシュボードは、現場のカメラ映像をトライポッドのクラウド映像解析プラットフォーム「ViewCamCloud(ビューカムクラウド)」に集約し、建設機械に特化したAI解析を行うことで、「AIダッシュボード」に施工実績、重機稼働時間、重機稼働率、掘削土量をリアルタイムに表示し、現場での生産状況の「今」を把握できる先進のシステムだ。
22年には「DXワーキングチーム」が立ち上がり、22年のリボーンワークでは、チームメンバーを対象としたDXセミナーを開催した。佐藤さんは、「近い将来、DXワーキングチームが委員会を飲みこむ形で、DXを中心に据えた形態に変わっていくことを目指している」と話す。
ICT導入の先陣を切った同社は、これからも東北の建設業の先進モデルの役割を果たしていくだろう。
※i-Construction 国土交通省が提唱する「生産性革命プロジェクト」の一つ。ICT(情報通信技術)を、建設現場に取り入れて測量・施工・検査などに活用し生産性向上と経営環境改善を目指す。1人当たりの生産性が約5割向上すると見込まれている。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 少子高齢化を背景にした人材採用の難しさ、現場の効率化などの課題を抱えていた。
導入したITシステム
・ i-Constructionに歩調を合わせ、ドローンによる現場の空撮を導入。
・ 総合気象GISプラットフォームを導入。
・ BIM/CIMの導入。
・ 「AI解析×施工実績ソリューション : AIダッシュボード」を共同開発。
IT化後の状況
・ 工期や安全にも影響する気象の変化を社員が共有する体制ができた。
・ 施工現場をカメラで写し、責任者がどこにいても確認できるようになった。
・ AIにより施工実績や生産性の定量的な把握が可能になった。
会社データ
社名 : 株式会社丸本組(まるほんぐみ)
所在地 : 宮城県石巻市恵み野三丁目1番地2
電話 : 0225-96-2222
代表者 : 佐藤昌良 代表取締役社長
従業員 : 約170人
【石巻商工会議所】
※月刊石垣2023年1月号に掲載された記事です。
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