2022年10月、JR西条駅周辺で「酒まつり」が開催され、14万人を超える来場者でにぎわった。この2年間はコロナ禍のため縮小を余儀なくされたが、オンライン配信を活用するなど継続できる道を模索し続けた結果、今日の盛会に至っている。30年という長い歴史を持つイベントにはどのような思いが紡がれてきたのか、東広島YEGの矜持(きょうじ)がそこにあった。
「三大酒どころ」としてのアイデンティティー
広島の西条は日本有数の日本酒の産地で、兵庫の灘、京都の伏見と並ぶ日本三大酒どころに名を連ねる。「酒まつり」は、地元酒造協会が開催していた「西条酒まつり」と、市民の意識啓発に行われていた「みんなのまつり」が一体となり1990年に生まれたもの。イベント名にあえて地名を付けていないのは、吟醸酒発祥の地として日本酒文化発信の使命が課されているとの自負からだ。2013年には全国各地の1000銘柄を超える日本酒を提供するまでに至り、地元だけでなく県内外から愛され、全国の酒蔵からも応援される規模にまで成長した。このイベントについて、実行委員長の原田明さんに伺った。
日本最大規模のお祭り
「全国のお酒が集まる『酒ひろば会場』や、蔵元の賄い料理を原点とする美酒鍋が食べられる『美酒鍋会場』など、お酒を楽しめるのはもちろん、有名アーティストによるステージや、小中学生の和文化発表会、子どもたちが楽しむ『わくわく広場会場』など、お酒が飲めない人にも喜んでもらえるようになっています。世代を超えて楽しんでもらえるお祭りであることが『酒まつり』の独自性であり、開催者としてもそこにこだわりと自信を持っています」と、日本最大規模の酒イベントの開催を担う者としての矜持をのぞかせた実行委員長の原田さんはニヤリとしてみせた。
産学官連携の極み
お祭りを極みへと高めているのは、30年の歴史と連携の力だ。
「東広島市には大学のキャンパスが4つ存在し、人口のおよそ10%が学生といわれています。イベントの運営を手助けするサポーターには多くの学生に協力いただき、加えて市内企業からも協賛やスタッフの応援、また市の『ブランド推進課』には企画段階から携わってもらい、イベント当日200人以上の職員が参加しています。このように地元の大学、企業、行政との関係なくして開催は成り立ちません。実行委員会はYEGのほか、青年会議所、酒造協会、観光協会と4つの団体で組織されており、一心となってお祭りを盛り上げています」
過去から現在、そして未来へ
原田さんは最後にこれから目指す姿をこう語ってくれた。「コロナ禍を経験し、私たち自身にもステップアップといえる気付きがありました。これまで来場者数ばかりを追いかけてきましたが、それが全てではなく、その場に来てくれた人にいかに質の高いものを提供できるかをもっと考えるべきではないか、そして参加者が心から楽しめるのであれば、それには紛れもない存在意義があるのではないか、そう考えるようになりました」
今年の「酒まつり」は一部をチケット(予約)制とし開催規模を縮小した。来場者は過去の実績25万人から約14万人に減ったが、会場のスペースに余裕ができ、混雑が解消されたため、ゆっくりお酒を楽しめたとの声が聞かれた。また、オンライン配信も高視聴率を獲得するに至り、新しいお祭りの在り方がそこに見え始めているようだ。2022年「酒まつり」では、「3つのShin:新・進・心」をテーマに成功を収めた。脈々と受け継がれてきた郷土愛を紡ぎ、持続可能なお祭りの実現を目指して東広島YEGの次への挑戦は既に始まっている。
【東広島商工会議所青年部】
会長 : 杉原 里志
設立 : 1989年
会員数 : 147人
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