さまざまなSNSを活用し、多くのフォロワーを抱えているインフルエンサー。特に若年層への訴求力があることから、SNSを使って発信するインフルエンサーが注目されている。スマートフォン1台あれば、全国どこからでも始められるSNSは、中小企業や地域企業と非常に親和性が高い情報発信ツールでもある。そこで、自らインフルエンサーとなり自社情報を発信し、知名度アップや販路拡大に成功した企業や商工会議所の取り組みを追った。
会社のホームページが本丸でそこに人を誘導するのがSNS
新潟県長岡市にある光明舎は、コンタクトレンズなどの販売、医療機器・器具の販売とリースなどのメディカル関連業務を行っている。医師である夫の眼科クリニック開業に合わせて同社を設立した社長の笹川正子さんは、クリニック用のSNSを開始。今ではインスタライブなどを行って自分自身の注目度を上げることで、クリニックや自社のホームページへのアクセス数アップに貢献している。
診療圏の半径2・5㎞でコアなファンを獲得する
笹川さんがSNSを始めるようになったきっかけは、夫の眼科クリニックが開業してから3年後の2009年、近隣に競合クリニックが開業する予定だと知ったことからだった。笹川さんはクリニックの認知度アップと患者増を図るために、東京でマーケティングの勉強を始め、そこで組織が発信力をつける必要性があることを学んだと言う。
「そこでツイッターのアカウントをつくり、情報を発信していきましたが、当初はクリニックの休診のお知らせやコンタクトレンズの新製品紹介くらいしか出す情報がなく、うまく活用できていませんでした。長岡市の狭いエリアで眼科クリニックとしてナンバーワンになるには、診療圏の半径2.5㎞にコアなファンを獲得していく必要がある。そこで140字という文字数制限のあるツイッターよりも多くの情報を発信できる、フェイスブックを活用することにしました」
フェイスブックにアップし始めたのは、クリニック併設の薬局で働く、体重が当時102㎏あった薬剤師のダイエット日記だった。クリニックには糖尿病網膜症(糖尿病が原因で視力が低下する病気)で診療に来る患者もいて、肥満は糖尿病との関連性も指摘されていることから、健康管理の必要性を知らせる目的もあった。
「仕事の後に彼が体重計に乗った写真を毎日アップしていったところ、意外に多くの人が見てくださって、コメント欄に『薬剤師さん、頑張れ』といった温かい励ましの言葉をいただくことが多くなっていったんです。これで、SNSはコアなファンづくりには欠かせないツールなのだということを実感しました」
SNSで自分を売り出していくことが重要なカギに
その後は若い人をターゲットにしたカラーコンタクトレンズ(カラコン)のおしゃれな使い方を紹介したり、コンタクトの扱い方を説明する動画をYouTubeにアップしたりしていった。
「そうしたらコンタクトの外し方とお手入れ方法の動画をカラコンのメーカーさんがシェアしてくれて、その再生回数が数万回になったんです。そのおかげもあり、うちは新潟県の眼科クリニックの中でカラコンの売上高ナンバーワンを獲得することができました」
その一方で、SNSで展開してうまくいかなかったこともある。それはオリジナルの老眼鏡ルーペの販売で、きれいに撮影した製品写真をインスタグラムで発信したが、予想より売れなかったのだ。
「老眼鏡に抵抗がある人がまだ多かったので、女性をターゲットにして、天然石のネックレスのようにデザインしたものを販売したんです。ところが先を行き過ぎたのか、全く売れない。それで在庫を抱えることになってしまいました。それに懲りて、インスタグラムはしばらくほったらかしにしていました」と笹川さんは笑う。
そんな中、笹川さんに転機が訪れた。友人に誘われて参加した2019年の「ミセス・インターナショナル・グローバル」の日本大会で、笹川さんは45歳以上の部門でグランプリを獲得し、日本代表として世界大会に出場。マレーシアで開催された世界大会で「アンバサダー賞」を受賞したのだ。
「この経験を生かし、その年の末から講演会活動も始めたのですが、そこから急に、インスタグラマーになろうと思ったんです。SNSで情報を発信していくためには、自分自身を売り出していくことが重要だと気付いたのです」
インスタグラム再開3年でフォロワー数が130倍に
笹川さんはインスタグラムを再開し、アカウント名もマサコ・ササガワに変え、ほぼゼロからアカウントの内容をつくり直した。
「それからは、インスタグラムで同じようなカテゴリーの人たちが何をどう発信しているかを徹底的に研究して、"いいね回り"もしていきました。これは私と同じカテゴリーの人のアカウントをフォローしている人の投稿に『いいね』をしていくことで、チラシを配ってご案内に回っているようなものです。これにより私の存在を知ってもらえるし、私のアカウントもフォローしてくれるようになる。そうしたら私の投稿を見てくださる人が面白いように増えました」
インスタグラム再開時は500人だったフォロワーが、半年後の20年夏には1万人を超え、22年12月現在、6万4000人にまでなっている。3年間で約130倍になったことになる。また20年夏からはインスタグラムのフォロワーに向けたインスタライブ(インスタグラム上で行うライブ配信)も定期的に行うようになり、最高で800人が視聴したこともある。インスタライブで行っているのは雑談のようなもので、参加者のコメントに笹川さんが応えていく。
「インスタグラムの内容は眼科とは関係ありませんが、アカウントのトップにクリニックのURLを掲載していて、そこからホームページにアクセスしてくる数も多いです。私はホームページが本丸で、そこに人を誘導するのがSNSだと思っています。みなさんも、SNSを営業活動の一環という形で始められたらいいと思います」
SNSで会社の事業内容や自社製品を宣伝するのではなく、経営者自身が注目されることで、会社にも注目が集まる。これも企業によるSNS活用法の一つといえるだろう。
会社データ
社名 : 有限会社光明舎(こうみょうしゃ)
所在地 : 新潟県長岡市大島本町5-113
電話 : 0258-28-5005
HP : https://www.sasagawa-ganka.jp/
代表者 : 笹川正子 代表取締役
従業員 : 12人(パート含む)
【長岡商工会議所】
※月刊石垣2023年2月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!