「地域一体型オープンファクトリー」とは、従来の「オープンファクトリー」がいわゆる工場見学を中心とした1社型だったのに比べ、地域内のものづくり企業が連携して、一体的に見せていく取り組みである。この活動を通してイノベーションや地域活性化につなげようと奮闘する商工会議所がある。
多摩地域北西部に位置する青梅市は、ハイテク産業の集積地として栄えていた。近年は大手メーカーの工場転出が相次ぎ、大きな転換期を迎えている。そこで「青梅のものづくり」の起爆剤として、青梅商工会議所が企画したのが「おうめオープンファクトリー」だ。2019年から毎年開催し、地域経済の循環を目指している。
地域の基幹産業に新規軸を立ち上げる
江戸時代より木材・織物のまちとして栄えた青梅市は、1982年の三ツ原工業団地の完成を機に大手企業の工場誘致が加速して以降、東京中心部に近い工業のまちとして勢いを増した。
「青梅市の面積は東西に長く、御嶽山や奥多摩がある西側は観光エリア、青梅駅のある中心市街地は商業エリア、そして三ツ原工業団地のある東側に工業エリアと地域が分かれているのが特徴です。地場産業に青梅ブルーといわれる藍染めやタオル、ワサビなどがありますが、基幹産業は半導体製造装置を支える電子部品やデバイス分野。汎用・生産用・業務用機械分野と合わせて地域外から獲得する所得の60%を占めます」
そう説明するのは青梅商工会議所地域振興部地域振興課の野本健太郎さん。観光業、商業、工業のバランスが取れた地域というが、7~8年前にバランスを揺るがす出来事があった。東芝の製造工場の移転だ。優れた技術者の中には市内で起業する者もいたものの、地域に与える衝撃は大きかった。生産年齢人口の減少、製造業の若者離れなど不安材料もある。手をこまねいてはいられないと同所が動いた。
「商工会議所として、これまでまちゼミや、2Sや5Sをテーマにした経営セミナー、2022年で55回を数える青梅産業観光まつりを開催してきました。そうした知見やノウハウを生かして、製造業を盛り上げられないかと試行錯誤する中、地域一体型オープンファクトリーに行き着きました」
企画したのは同所地域振興課課長の細川卓也さんだ。「おうめオープンファクトリー」を立ち上げ、実行委員会が組織された。実行委員長を務める丸芝製作所代表取締役の奈良野剛さんは言う。
「手探り状態でのスタートで、細川さんと野本さんと一緒に情報を集めたり、先例のある東京23区、中でも大田区や墨田区のオープンファクトリーを見学したりしました」
開催するには資金もかかる。この事業は東京都の経営改善普及事業として認められ、財源を確保できたことで、企画は一気に現実味を帯びた。
コロナ禍のオンライン開催で結束力とスキルがアップ
「オープンファクトリーの参加企業を集めるべく、1社1社地道に電話をかけて、オープンファクトリーとは何か、参加するメリットは何かなどを丁寧に説明していきました」(野本さん)
企業側の要望にも耳を傾けた。工場見学を終日オープンと事前予約制に振り分け、従業員が数人以下の工場には同所の職員がアテンドした。また、東京23区内のオープンファクトリーは徒歩で巡ることができるが、青梅市内の企業は距離が離れている。そこで鹿沼商工会議所主催の『かぬまオープンファクトリー』を参考に、無料シャトルバスを運行するなど工夫を凝らした。
「最も配慮したのが情報漏えいと見学者の安全確保です。参加企業、見学者それぞれの視点で注意喚起を徹底しました」と細川さん。PRにも力を入れ、ホームページを開設し、約6万5000部のチラシを印刷した。3万部はポスティングや、新聞折り込み、地域企業、小中学校への配布で地域の人々への認知拡大にも努めた。
そして19年11月23日、市内30社が参加する『第1回おうめオープンファクトリー』が開催された。見学者数は470人と予想を超え、参加企業からも「また参加したい」「従業員の士気が上がった」という声が上がる。翌年はコロナ禍で「中止」の二字が何度もよぎったが、オンラインのみでの開催に踏み切った。
「オンラインでの開催は、都内初の試みだったと思います。商工会議所でも動画撮影のセミナーを開催するなどいろいろフォローしました。初挑戦だったことで企業間の結束力が増し、交流が密になったように感じます」と細川さん。野本さんも「見学者にとっては工場を家で見られる新鮮さが好評で、3回目からはオンラインとリアルの両方で開催する流れが生まれました」と語る。
地域イベントから事業開拓へ変わりゆく開催目的
回を重ねるごとに参加企業の認知度、見学者の知的好奇心の満足度は上がり、さらなる可能性、展開も見えてきた。奈良野さんは、オープンファクトリーは従業員の企画力やプレゼン力の向上、自社の強みの再確認に有効であると実感し、新規事業の開拓にもつながるという。
そして22年11月に開催した4回目は、さらに内容を進化させた。見学者は工場を「見る」だけではなく、「参加する」機会を増やしていった。
「うちの工場では、見学者を対象にした一輪挿しのワークショップを開催しました。これは、オープンファクトリーのブランディングをお願している明星大学デザイン学部の萩原教授のアドバイスによって実現しました。また、玄人はだしの見学者と交流が生まれるなど、BtoB、BtoC事業に発展する可能性を感じています。今後は地域企業間で個々の得意分野を生かした、デザイン性の高い地域プロダクトがつくれないかと構想中です」(奈良野さん)
同所によれば、今後はオープンファクトリーの参加企業や、見学者の数を増やすこと以上に、一人一人に丁寧に伝え、伝わるオープンファクトリーの"質"を追求する段階にあるという。実際、22年の参加企業数は23社で、見学者は前年同様オンラインも含めて約240人とセーブしている。
「見学は完全事前申し込み制にしました。さらに休日に工場を稼働させる企業側の負担を考慮して、今回は初めて金曜、土曜の2日間開催しました。平日の見学者は少ないですが、参加企業は前年より6社増えています。いろいろ試して青梅にとってベストな開催方法を見つけ、ゆくゆくは地元企業主導で開催できるように恒例化していきたいです」(野本さん)
オープンファクトリーが「目的」から「手段」となり、地元企業がつながって新たな地域経済の循環を生み出しつつある。
会社データ
青梅商工会議所
所在地 : 東京都青梅市上町373-1
電話 : 0428-23-0111
※月刊石垣2023年2月号に掲載された記事です。
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