医療機関向け遠隔画像診断サービスをコア事業とするワイズ・リーディングは、医療現場のDXを実現し、医師の働き方改革に資するプロダクトやサービスを提供している。同社の事業内容を紹介するとともに、病院に限らず組織がIT化、DXを進める上で重要なことについてアドバイスしてもらった。
専門医だからこそ開発できた遠隔画像診断サービス
遠隔画像診断とはCTやMRIなどの画像をネットワークを通じて送信し、院外の放射線科専門医(読影医)が画像を見て診断し、レポートを作成する作業。今日の医療では、画像による検査・診断が重要な役割を果たしているが、放射線科専門医不足により、画像診断精度や治療効率が低下する問題が起こっているという。そこでワイズ・リーディングでは、Y's Report(ワイズレポート)という遠隔画像診断サービスを事業化し、契約先の医療機関から伝送された画像データを専属の放射線科医が一次読影を行い、場合によっては放射線科専門医歴25年以上の医師が二次読影を行うというダブルチェックシステムを整えている。
同社は2007年、放射線科医でもある代表取締役の中山善晴さんが起業した。読影を行う放射線医の勤務が非常にハードであること、地域により医療に格差が生じていたことなどを痛感していたからだ。だが、なぜ遠隔画像診断のニーズがあるのだろう。例えば脳ドックで撮影したMRI画像は担当の脳外科医が読影すればいいのではないか。
中山さんは「画像は画像の専門医が診た方がいい」と話す。
「画像に写った脳の疾患は脳外科医が診断しますが、たまたま咽頭の腫瘍が写り込んでいても耳鼻科の領域であるため、診断ができません。私たち(放射線科医)は画像診断が専門なので、(偶然に写り込んだ咽頭の腫瘍も含め)画像に写っている全てに責任を持って診断することができます」
ワイズレポートの開発は、中山さんの出身大学でもある熊本大学と富士フイルムメディカルとの産学連携でスタートした。中山さんは画像診断のノウハウを提供し、大学は医師を派遣し、富士フイルムメディカルは遠隔読影システムの開発を担当してバージョン1が完成した。続いて1の改善点を洗い出してバージョン2の開発に入ったが、難航する。そこで中山さんはエンジニアを採用し、社内に開発チームをつくった。
「現場を知らないのだから要望に的確に応えられないのは仕方ありません。でも、私たちは日本で一番品質の高い遠隔画像診断をやると決めているので、課題を正しく理解している自分たちでつくるしかなかったのです」
AIを活用してレポートを作成するシステムが大賞受賞
読影の仕事は画像を見て診断して終わりではない。
「読影医にとっては、画像診断報告書(レポート)を書く作業が非常に大事です。診察して何も問題がないからといって、レポートに『異常なし』と書くだけでは済まされない。何を見て、何があって、何がなかったという記録が求められます。その記録作業がとても負担になるのです」
そこでAIを活用してレポートを作成するシステムをつくった。それが熊本商工会議所主催の「くまもとDXアワード2021」で大賞を受賞したレポート作成支援システム「Y's CHAIN(ワイズチェイン)」だ。これはデータベースから提示される文章をつなぐだけで、効率よくレポートが完成するシステムで、読影業務の所見入力時間が30%効率化され、同一時間での作業量は約1.5倍に向上した。一般企業での活用も視野に入っているという。中山さんは開発の背景をこう説明する。
「どんなに優秀な医師でも"人間"である以上、クリアできない三つの問題があります。それは『疲労』、『加齢による忘却』、命には限りがあるので医師が持つ『技術の継承』。それらを解決するのがテクノロジーです。テクノロジーは疲れないし、記録は正確だし、技術をコピーすればほかの人に継承することができます。有能な医師が蓄積したノウハウをデジタル化して継承していく作業はとても大事です」
ただ、病院の経営者がワイズチェインを導入しようとしても、現場の医師の反対にあって頓挫したケースはいくらでもあるという。そこで中山さんは、サービスとして提供されたものを医師が個人で使えるクラウドバージョンを4月にリリースする計画だ。クラウドであれば、医師が個別に知見を深めることができるし、別の病院へ移るときはこれらを持ち運ぶことができる。
このほかにも同社には、病院・施設間でシームレスな情報共有ができる「Y's Bridge(ワイズブリッジ)」など、医療機関のDXに役立つプロダクト・サービスが用意されている。
最後に中山さんは、経営者として、医師としての経験から、スムーズにIT導入、DXを推進する秘訣をこうアドバイスする。
「重要なことは課題を正確に見極めることです。そのために社員には課題を具体的に挙げるように求める。最初のうちは、解決しやすい小さな課題でいい。課題を見つけて解決を繰り返すうちに成功体験が身に付きDXが進みます」
課題は現場にあり、解決策を見つけられるのも現場である。医療現場のDXを進める中山さんのアドバイスには実体験に基づいた重みがある。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 読影をする放射線科専門医不足により、読影医の負担が増加していた
・ 読影業務の多くは画像診断ではなく、文書(レポート)の作成だった
導入したITシステム
・ AIを用いた文書作成支援システムの「Y's CHAIN」を導入
IT化後の状況
・ 読影業務を診断時間と所見入力時間に分けると、所見入力時間が30%効率化され、同一時間での作業量は約1.5倍に向上した
・ 結果、読影医の負担が軽減された
会社データ
社名 : 株式会社ワイズ・リーディング
所在地 : 熊本県熊本市北区高平3-43-11 5F
電話 : 096-342-7878
HP : https://www.ysreading.co.jp/
代表者 : 中山善晴 代表取締役
従業員 : 25人
【熊本商工会議所】
※月刊石垣2023年2月号に掲載された記事です。
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