2011年3月11日に起きた東日本大震災から12年の歳月がたった。課題が残るものの、東北各地の被災地では順調に復興が進んでいるように見える。地域一体となって取り組みを進め、被災地の完全復興へ加速度を上げている東北各地の"元気企業"を紹介する。
水産業の6次産業化を進めて地元に雇用を創出
海遊は、東日本大震災が起こった2011年12月に設立された"三陸漁師の会社"だ。長年、家業でワカメやカキ、ホヤなどの養殖を行ってきたが、震災前後から水産業の6次産業化を目指して、飲食店への直売に乗り出したほか、念願だったオイスターバーを開業。地元に雇用を生み出し、地域活性化への貢献に取り組んでいる。
震災で養殖施設、漁船、加工場全てを流失
石巻市の海岸線は、複雑な形の入江が続く典型的なリアス式海岸で形成されている。古くからカツオやマグロ漁業が行われてきたほか、各湾内ではカキやホタテなどの養殖も盛んだ。その地で、海遊の前身である伊藤水産は50年以上にわたり、ワカメを中心にカキやホヤなどの養殖を行ってきた。
「家業を1人でやってきた父親がケガで引退することになり、07年に家業を継ぎました。ところが、始めてみると全くもうかっていないことが分かったんです。この辺りの海は水がきれいだし、丁寧な仕事で良質のワカメを生産していたけれど、それだけではダメなんだと思い知りました」と同社社長の伊藤浩光さんは当時を振り返る。
それを機に、水産業の6次産業化に乗り出す。10年に海産物を加工する工場を建設し、自ら営業を開始した。
「獲れたてのカキやホヤを飲食店に使ってもらおうと、仙台市内を中心に営業に回りました。知り合いを通じてお客さんを紹介してもらったり、飛び込み営業もしたり、1日10軒くらいのペースで売り先が増えていきました」
そんな矢先、東日本大震災が起こり、養殖施設や漁船、加工場の全てを流失した。
海産物の直販を開始し飲食店の経営にも乗り出す
しかし、伊藤さんはすぐに頭を切り替えた。震災半年後には養殖施設をつくり直し、短期間で生育するものから生産を再開した。同年12月には伊藤水産から海遊へ法人化する。カキやホヤなどが育ち次第、直売を再開。仙台市内だけでなく、東京、名古屋、関西へと商圏を広げ、販売先は350店にまで拡大した。
14年には、被災地再生創業支援事業を活用して、オイスターバー「Ostra de ole(オストラ・デ・オーレ)」を仙台の繁華街にオープンする。店の内装はスペイン風の居酒屋をイメージしてデザインし、看板のカキ、ホヤ、ムール貝を12種類のソースとともに提供。県産野菜を活用したメニューに、ワインや日本酒なども楽しめるとあって、すぐに人気店となった。ちなみに、オストラ・デ・オーレとはスペイン語で「カキ万歳」という意味だ。
「オイスターバーは私の長年の夢で、6次産業化への成果の一つです。ここを拠点に、三陸の海産物のおいしさを発信したり、メディアなどの取材を受けたり、商談場所としても活用して、地域ブランド化を図りました」
そうしたかいもあり、同社が丹精込めて育てた特大のカキは、震災復興の夢を乗せて「夢牡蠣(ゆめかき)」の名前でブランド化を果たす。もともとミネラルの多い海域で育っているため味が濃く、栄養成分も豊富で、販売先にも好評を得る。16年には新加工場を建設して順調に事業を拡大し、同社の収益は加速度的に増えていった。
コロナ禍で輸出に乗り出し売り上げをV字回復
震災から着実に復活を遂げた同社もコロナ禍の影響を受ける。最初の緊急事態宣言で飲食店が休業を余儀なくされた20年4月、同社の売り上げは9割減となる。コロナ禍がいつ収束するのか予測できないため、多少焦りを感じながらも、まずは各種補助金を活用しながらオンライン販売を強化した。
21年には本格的に輸出にも乗り出す。アジア地域向けに輸出している企業とタッグを組んで、台湾、香港、シンガポール、マレーシアなど、売り先を開拓していった。
「アジア諸国のカキのニーズは非常に高い。特にシンガポールはカキが好きで、世界中からものすごい量を輸入しています。そこに占める日本の割合はまだ1~2%程度ですが、そのほとんどがうちのカキです」
なぜ、後発の同社がシンガポールへの輸出に参入できたかというと、市場にカキが品薄になる6~7月を狙ったからだ。本来カキの旬ではない上に、気温の上昇で大腸菌が繁殖しやすい時期だが、同社は菌が多く生息する上層ではなく、水深40mの中層で養殖する独自の方法を取っているため、菌がほとんどいないのだ。その強みを生かしたことで輸出が実現し、22年の売り上げはコロナ禍前と比べてプラスに転じた。国内の販売先も北海道から沖縄まで広がり、さらに市場など大口の取引先も加わった。
困難に直面しても不屈の精神で6次産業化を推し進めてきた伊藤さんだが、その根底には地域の雇用を守りたいという思いがあった。水産業は右肩下がりの状態が続き、働く場所が減少すれば地元の過疎化も進む。その流れに歯止めを掛けるために新規事業を興し、震災後新たに10数人の従業員を雇用した。とはいえ、同社の平均年齢は60歳を超えており、若い人材に来てほしいと言う。
「実はこれからの水産業は女性の活躍が必要だと思っているんです。漁を担うのは難しくても、真面目で数字にも強いので会社の運営や企画にも向いています。あとは地域の協力体制をつくって、もっと三陸の海産物をほかの地域につないでいきたいですね」と今後の抱負を語った。
会社データ
社名 : 株式会社海遊(かいゆう)
所在地 : 宮城県石巻市雄勝町水浜字水浜9-1
電話 : 0225-25-6851
代表者 : 伊藤浩光 代表取締役社長
従業員 : 26人
【石巻商工会議所】
※月刊石垣2023年3月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!