日本商工会議所創立100周年記念特別企画として、小林健会頭と未来の商工会議所を担う日本商工会議所青年部(日本YEG)歴代会長による座談会「地域とともに、未来を創る」が開催された。小林会頭の所信である「日本再生・変革に挑む」を実現するために、中小企業や地域が目指すべき方向、日商や全国の商工会議所、そして青年部の果たすべき役割について、それぞれが語った熱い思いを誌上にて紹介する。
参加者
日本商工会議所
小林 健 会頭
日本商工会議所青年部(日本YEG)
米良 充朝 2020年度会長(宮崎YEG)
吉川 正明 2021年度会長(沼津YEG)
西村 昭宏 2022年度会長(鯖江YEG)
木村 麻子 2023年度会長(高松YEG)
日本経済を再生するには二つの「変革」が必要
─昨年11月の会頭就任時の所信で、激動の時代だからこそ、新しい視点から変革に挑まなければならないと述べられました。改めて日本経済の再生に向けた変革の必要性についてお聞かせください。
小林健会頭(以下、小林) 現在、エネルギー価格の高騰、資源価格の上昇などにより、インフレが世界中で高進しています。このような激動期には、変革で対応していかないと巻き返しを図ることはできません。私が思い描く変革の一つは、イノベーションです。技術に限らず新しい価値を創造していくには、その前に現状のさまざまなしがらみを破壊できるかどうかにかかっています。もう一つは、社会。会社という字をひっくり返すと社会になります。会社という社会をどのように良くしていくか、それも変革の一つの道です。
この20年ほどの間に、世界の経済状況や企業経営における価値基準はずいぶん変わりました。株主のためにいかに働くかが重視された時代もありましたが、ステークホルダーは株主だけではありません。社会や環境もステークホルダーです。その観点から、企業を変えていくのは経済価値だけでなく、社会価値や環境価値、つまり自分たちの会社が主体的な存在であることを認識して、社会一般に対しても貢献していくことが大切で、その取り組みが社会全体を良くしていくと考えます。
それをどういう手段で行うかは、ぜひ皆さんで議論してほしい。デジタルやGXなど手段はいろいろありますが、それを最も実行に移しやすいのは中小企業だと思います。なぜなら、経営と現場、経営者と従業員との距離が近い分、思いも伝わりやすく、変革を進めやすい風土があるからです。変革をどのように従業員やステークホルダーと相まって実践し、社会にどう影響を及ぼすのかを、地域社会も含めて議論していきたいと考えています。
中小企業の自己変革を後押しする環境をつくる
─変革に向けて中小企業が取り組むべき課題やテーマは何か、それに対して商工会議所や青年部はどのように関わっていくべきでしょうか。
木村麻子さん(以下、木村) 超高齢化社会に突入し、コロナ禍を経て、地方は本当に疲弊しています。変革の必要性を理解している企業は多いと思いますが、どこに向かって具体的に何をすればいいか悩んでいるところが少なくありません。企業が変革していくために必要なのは、具体的なビジョン、そしてそれを推し進めるパッションだと思います。
日本が成長戦略に取り組んでいく上で、DX、GX、男女共同参画などさまざまなテーマがありますが、地域が日本を再生し、輝きを取り戻す源となるという捉え方をすることが大切ではないでしょうか。その中で商工会議所や青年部が地域に生きた情報を伝えて後押しする、研鑽(けんさん)と学びの場をつくっていかなければと改めて感じています。
西村昭宏さん(以下、西村) 激動の時代に中小企業が取り組んでいくべき課題は、大きく二つあると考えます。一つはデジタル化、もう一つは新規事業や事業再構築、つまり変革です。
今後、確実に人材不足が進んでいきます。コロナ禍でテレワーク、女性活躍、シニアの活用など、働き方は多様化しましたが、中小企業こそデジタル化を一層進め、人材の有効活用を進めることが必要です。そして新規事業や事業再構築に取り組んで、付加価値の高い商品やサービスを提供し、しっかり利益を獲得していかないと、給料を上げていくこともできません。
そのために商工会議所が果たすべき役割は、中小企業の伴走者となること。中小企業は目先の仕事にとらわれがちなので、商工会議所や青年部が相談に乗って支援していくことが変革を後押しすると考えます。
吉川正明さん(以下、吉川) 経営者の器以上に会社は大きくならないといいますが、変革にはまず経営者自身の自己変革が重要だと考えます。自己変革には知見を広げることが必要ですが、青年部の活動は時にビジネスと直接関係のない人との出会いや交流もあり、自分の器を広げることに役立っています。
ここにいるメンバーはコロナ禍で苦しみ、もがき、新しい形を模索しながらやってきました。これからも青年部が変革のリーダーであり続けたいと思っています。
米良充朝さん(以下、米良) 私は電気設備の製造業を営んでいますが、その中で人材確保、人材育成にほぼ神経を集中してやっています。人材育成で私が重視しているのは、自分の会社にアイデンティティーを持ち、なぜこの会社で働くのかを共有すること。その共有がないと大きな目標の達成は難しいと感じます。
そして会社の中で小さな成功を積み重ねていくことが、大きな成功をつかむ足掛かりになり、イノベーションのきっかけになると自信を持っています。そうした小さな会社の集合体が地域に根差していくと、地域の活力は上がっていきます。日本経済や地域経済の成長エンジンとして、青年部がいかにあるべきか、小さな成功の積み重ねを互いに共有してネットワークを構築し、支え合う活動を目指していきたいです。
小林 皆さんの言う通りだと思います。青年部は第一に交流やネットワークの場。それぞれ地方に拠点を持ちながら、地方の状況について意見交換していく場です。皆さんは実際に経営に携わり、現場で最も問題点が分かっている世代だと思うので、もっととがってもいいのではないでしょうか。商工会議所やわれわれを使い倒すくらいの気持ちでやってもらいたいです。
"企業連携""地域間連携"によって地域を元気にする
─地域には独自の歴史、伝統、文化があり、地場産業をはじめとする多様な産業が蓄積されています。地域がそのポテンシャルを発揮して、再び活力を取り戻すために、商工会議所や青年部がなすべきことは何でしょうか。
米良 近年、地域が活力を失いつつある背景には、「これくらいでいいだろう」と自分たちで限界をつくっている部分があると感じます。秩序を守ることも必要ですが、秩序の中で限界と限定せず、いろいろなことに取り組んでいくことが大事ではないでしょうか。親会である商工会議所(以下、親会)で取り組みにくいことがあれば、青年部に「こんなことをやったらどうか」と指導していただきたいし、青年部からもいろいろ提案していきたいです。
木村 地域が輝くには人が輝かなくては実現できません。それには夢や希望が持てるような状態であることが重要だと思います。地域には素晴らしい技術や叡智(えいち)、伝統、文化がありますが、超高齢化社会が進む中、一社だけがどれだけ努力をしても成り立たなくなるときが来るのではないでしょうか。企業間連携、地域間連携、オープンイノベーションなどにより、一社、一地域だけでは描けなかった新しいビジョンを見いだしていく。それを推進していくことで、地域が輝くのではないかと思います。
西村 私もそう思います。全国各地には産業が蓄積されていますが、同じことをしているだけ、一社、一業界でやっていくだけでは衰退の一途です。私の地元の福井県鯖江市は眼鏡産業が有名ですが、この20年で企業数も産業規模も3分の1に減少しました。残ったところがイノベーションや新規事業を興して現状を維持していますが、今後地域を成長・発展させていくには、連携が非常に重要です。
商工会議所には多種多様な事業者が所属しており、地域の課題解決にはそのネットワークを生かさない手はありません。そして地域がもっととがって、地場産業を国内だけでなく世界に向けて情報発信することで、新たな事業展開ができると期待しています。
吉川 私は先日、広島県三次市に行きました。三次には、商工会議所青年部が地域活性化のために生み出した「三次唐麺焼」というご当地グルメがあるのですが、同青年部がすごいのは行政を頼らず、自分たちでプロジェクトを立ち上げて全国に広めたことです。しかも、もともと唐麺は特産品というわけではないんです。地域資源がなくても、ポテンシャルとアイデアがあればできるということに感銘を受けました。
青年部の若さと行動力、アイデアをもってすれば、新しいものを創造できると感じましたし、それが地元を元気にすると思います。
─小林会頭は就任時に、「現場主義」「双方向主義」を継承・徹底させると述べていましたが、地域活性化についてどうお考えですか。
小林 GDPの3分の2を占める地域経済の活性化が鍵です。地方の活性化なくしてGDPは上がりません。そして人口減という課題も抱えています。地方のパイを小さくせず、むしろ拡大、成長させるにはどうすればいいか、真剣に取り組まなければなりません。
各地には観光や食などの地域資源があり、それを活用して地域活性化を図るのは商工会議所の役割の一つです。それには地域の人をいかにその気にさせるかが重要。市民の誇り、郷土愛を醸成して地域資源を結び付けていくことが必要ではないでしょうか。先ほど、皆さんに「もっととがってほしい」と言いましたが、地域活性化に向けて100を目指すのではなく、120を目指すくらいの気持ちで取り組んでいただきたいです。
青年部は変革の時代のリーダーとして先頭に立つ
─皆さんは青年部の会長・副会長を経験し、今後、地域経済の活性化について中核的役割を果たすことが期待されています。地域経済や中小企業の成長・発展に向けてどうしていきたいと考えていますか。
米良 私は青年部に14~15年在籍し、さまざまなことを勉強させてもらいました。商工会議所という団体の持つ大きな特長の一つに、質の高い情報が集まり、そこに格式があることが挙げられます。ネットではさまざまな情報が飛び交う中、商工会議所から発信されるのは国も注目するような情報ばかりで、質の高い提言を行っています。それを見習いながら、青年部に身を置いている強みを生かして、若者からも海外からも注目される地域づくり、会社づくりを推進していきたいです。
吉川 今年で50歳になるので青年部は卒業ですが、沼津商工会議所の常議員も務めています。そこで感じるのは、青年部は親会の活動を意外に知らないということ。商工会議所は中小企業の活力強化、地域振興、政策提言活動など、地域にとって重要な役割を担っています。青年部が変革の時代のリーダーを担っていくなら、双方が連携して相乗効果を狙う方がもっと地域が良くなるのではと感じます。私はちょうど中間的な立場にあるので、橋渡し的な役割を果たしていきたい。
西村 これからの地域経済は経済規模だけでなく、誰もが安心して働ける幸せな地域社会をつくることを目指すべきだと考えます。確かに、親会の活動を理解していない青年部のメンバーはまだ多い。青年部は、やがて親会で活躍していくための成長の場であると認識して活動することが重要だと感じます。私も鯖江商工会議所の議員の一人として、今後、青年部の力をしっかり発揮することで、さらなる結果が出せるのではと考えています。
木村 私が商工会議所に入会した動機はまちづくりです。まちやこの国の未来をつくっていく、そういう経済団体であるというところに希望を感じました。青年部の役割は大きく、また熱量があります。2023年度、青年部の会長職を務めますが、この先は個々ではなく、まち、地域、国と連携し、ビジョンをともに描きながら活動していきたいです。
─青年部は昨年40周年を迎えましたが、木村さんはその歴史の中で初の女性会長です。青年部の中で女性が活躍することに関して何か意識されていますか。
木村 私自身19年ほど前に起業し、経営者として活動してきた中で、自分が女性だと意識したことはありません。これからの社会、商工会議所の男女共同参画は日本の未来にとっても重要です。その中で青年部の会長職を預かることになったというのも、一つの役割であり運命だろうと思います。今後さらに家庭も社会もともに支え合い、ともに育むという新しい在り方、文化的発展に寄与して、できる限り大きな風を吹かせたいです。
次世代の経営者に最も期待すること
─最後に、小林会頭から全国の青年部、次世代の経営者に向けてメッセージをいただけますか。
小林 現在の日本では、団塊の世代がもう少しで後期高齢者になります。中小企業の経営者であれば事業承継をするタイミングといえます。このタイミングと日本が直面している課題が、偶然にも一致したこの時期は非常に重要な意味があると考えます。現役トップの中には立派な人もたくさんいますが、年齢的には近未来のことしか考えられません。だからこそ、皆さんの世代にはぜひ、自分が事業承継する側となる10年20年先の日本がどうなっているのかを考えていただきたい。漠然とではなく、実体として考えてほしいのです。事業承継の際にはいい意味でのイノベーションが起こりやすく、青年部にはさまざまな情報が集まってくるので、日本の産業界、日本の未来について大きく考えてほしいと思います。
それと、われわれ商工会議所との連携を良くして、言いたいことは何でも言ってください。親会は労働人口の7割を占める中小企業を抱える大きな社会的存在で、世間を見ながら発言しなければならない部分があります。しかし、青年部はそんなことを考える必要はありません。「今、○○が必要だ」「こんなことを考えている」と声を上げてほしい。
親会は、現場で何が問題なのか、若手はそれにどう対応しようとしているのかを知りたいのです。せっかく商工会議所という組織があるのだから、若い世代の代表としてどんな意見を持っているのか、それをまとめるのも役割の一つですし、そういうところに大いに期待しています。
─課題を克服して明るい未来を築いていく。それには自ら変革し、連携もしていく。青年部の皆さんに、引き続き期待をしたいと思います。どうもありがとうございました。
最新号を紙面で読める!