「消費者志向」は、今や多くの企業が避けて通れないテーマとなっている。消費者の声を的確につかみ、商品開発や経営に反映できれば、企業の業績は確実に上がるはずである。そんな消費者と企業の橋渡しの役目を果たしているのが「消費生活アドバイザー」だ。彼らの活動により企業はどう変わったのか、NACS理事を務める永沢裕美子さんに聞いた。
総論 消費者と企業・行政との懸け橋となる専門職
永沢 裕美子 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)理事
消費生活アドバイザーと聞いて、どんな仕事なのかピンとくるでしょうか。消費生活アドバイザーとは、企業や行政機関の相談部門などで、消費者の声を企業活動や行政に提言したり、消費者からの相談に対して適切なアドバイスを行ったりするスペシャリストのこと。消費者と企業・行政機関の懸け橋となるべく、昭和55年に創設された事業認定資格で、日本産業協会が行う試験に合格した人に与えられる称号です。創設以降、産業界の消費者志向の進展や消費者問題に対する関心の高まりなどを受け、平成28年までの有資格者累計は1万5725人を数え、その多くが企業、行政、団体など幅広い分野で活躍しています。
そもそも消費生活アドバイザーが誕生した背景には、昭和40年代半ばから湧き起こったさまざまな消費者問題があります。高度成長時代に大量生産・大量消費の仕組みが広がり、生活が豊かになる反面、欠陥商品などによる深刻な消費者被害が相次いで起こりました。しかし、被害を被った消費者は声を上げたくてもその方法が分かりませんでした。また、企業に「やめてほしい」と訴えるには、相応の法律の知識も必要です。そこで消費者に代わって情報を収集し、問題を分析した上で、その声を企業や行政に届ける人材が必要になりました。それが消費生活アドバイザーです。当時は雇用機会均等法の施行前で、4年制大学を卒業した女性が思うように就職できないケースが少なくなかったので、そうした人材に社会で活躍してもらおうという意図もあったようです。
企業活動のほかセカンドキャリア形成にも役立つ
消費生活アドバイザーの資格試験では、消費者問題、行政や法律、経済、生活知識、環境など幅広い分野から問題が出題されます。時事問題も広くカバーしており、常識を効率よく学ぶこともできます。
前述のように当初は女性の活用を念頭に置いていたため、合格者も女性の方が多かったのですが、今ではほとんど男女差はありません。受験者の年齢構成比では、30代が最も多く、40代、20代以下と続き、取得目的も人それぞれです。専門知識を職場で生かしたいという人が多いですが、近年では定年退職後のセカンドキャリア形成のために取得するケースも増えています。
実際、現役時代に仕事一筋だった人が、定年後に地域との関わりを持つ上でも、この資格は非常に有効です。市区町村にある消費生活センターなどでは専門知識と生活経験を持った人材を求めているので、即戦力として重宝されていますし、行政が受託事業として行っている消費者問題の教育や、高齢者の見守りネットワークなどの運営業務に携わるケースなどもあります。また、企業での経験や技術を生かして、地方の審議会への参加や民生委員になった人もいるなど、資格取得者には多彩な活動の場があります。
消費者志向でなければ良い商品はつくれない
消費生活アドバイザーに着目する企業が増えていますが、企業にCSR(企業の社会的責任)が求められるようになっていることと無縁ではありません。企業が社会に与える影響に対して責任を持ち、消費者をはじめとする社会全体からの要求に対して適切に対処するためには、やはり消費者志向であることが重要です。そうした観点から、企業が従業員に対して消費生活アドバイザー資格の取得を促したり、有資格者を採用したりするケースが増えています。
業種で最も多いのは、やはり製造業です。例えば、トヨタ自動車では介護や医療などを支援するパートナーロボットの開発に力を入れていますが、その開発者にはこの資格を持った人もいます。こうした製品を開発するには徹底したユーザー目線と、安全を守るための法律の知識が不可欠ですから、この資格は大いに役に立ちます。また、お客さまと接点がある部署に有資格者を配置しているのがユニ・チャームです。同社では、お客さまから受けるさまざまな相談や意見からニーズを掘り起こし、商品開発につなげる仕組みを構築しています。
ここ数年、資格取得に熱心だと感じるのは保険会社や証券会社で、急速に受験者数を伸ばしています。世の中は常に変化し、ニーズも多様化していますから、単に法令順守するだけでなく、考え方そのものが消費者志向でなければ良い商品は生み出せません。その表れではないでしょうか。
その気になれば中小企業の方が導入しやすい
消費生活アドバイザーの活用に積極的なのは大企業ばかりだと思うかもしれませんが、私はむしろ中小企業の方が取り組みやすいと思っています。大企業では有資格者を活用する仕組みを構築するなど段取りが必要ですが、中小企業では経営者の考え一つで導入できます。経営者が応援してくれれば、従業員の資格取得への意欲も向上しますし、有資格者がいるとその効果が周りにも波及していきます。
もし、「こういうものをつくりたいけれど、アドバイスしてくれる人がいない」という場合には、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)に相談するのも方法です。NACSが展開している事業の一つに企業との連携があり、個別に相談を受けることができます。また、NACSが開催しているセミナーに参加して、消費者志向に対する理解を深めてもらうことや、NACSスタッフを講師として企業に派遣することもできます。
企業が一つの業態で事業を継続することが難しくなっている現代社会。消費者あってこその企業活動です。消費者ニーズの変化についていけなければ、企業として存続することはできません。それを的確につかんで安定した経営を続ける上で、消費生活アドバイザーは大きなサポートになるはずです。
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)を活用しよう
NACSは、昭和63年に設立され、平成23年に消費者団体として初めて認定された公益社団法人。消費生活に関する日本最大の専門家団体であり、全国に約3000人の会員を有し、主に3つの事業を展開している。
● 消費者トラブルの解決
● 消費者啓発(消費者の教育)
● 消費者と行政・企業・消費者団体との連携
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