17~18世紀の西欧では、海外から輸入された茶やコーヒーを飲む習慣が市民の間に広まった。ロンドンではコーヒーハウス、パリではカフェといった施設が多く開設され、そこに集まった人々は政治、経済、文学について意見を交わした。市民の論調は、やがて世論としての社会的な影響力を持つようになった▼
人口減少が進む日本。政権が掲げる「異次元の少子化対策」についての議論が本格化する。政府から示された対策案で効果は見込めるのか。当面の児童手当てに加えて、2030年代までに倍増するとしている少子化対策の財源についてもその捻出は容易なことではない。財源確保のための消費税引き上げは国民の反発を招くため、支持率を過度に意 識する政権は国民への負担増を言い出せずに議論を先延ばしにする▼
人口減少は、言うまでもなく継承する家族が消えていくことであり、一人一人の問題だ。人口減少を受け入れるのか、あるいは社会全体で少子化対策に取り組むのか。国民自らが答えを出さなければならない。政治家に判断を任せてよいはずはないのだ。少子化問題について議論を深めるためには、現代版コーヒーハウスで若年・高齢層を含めて互いに意見を出し合い、異なる意見に耳を傾け、集まった人々の間で合意を形成することが必要だ▼
後に政治家となった市川房江は、女性の参政権獲得のための運動を全国に展開した。当事者である女性が声を上げることが社会を動かす一歩につながる。先の地方統一選挙では子育て世帯の女性の支援を受けて多くの女性議員が誕生した。今こそ、女性の政治家が、現代版コーヒーハウスで市民の声を集めて世論を形成し政策に反映させるべく奔走する時だ
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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