今まで廃棄していたものを有効活用し、新しい価値を付加する「アップサイクル」。これまでとは異なる視点で捉え直した"創造的再利用"で食品ロスや環境負荷の削減のみならず、ヒット商品にまで押し上げている地域企業の取り組みを紹介する。
長年廃棄していたニラの茎で栄養価の高い万能調味料が誕生
大分県は九州で宮崎県に次ぐニラの生産県である。ニラは洗浄に手間が掛かる、異物混入の恐れがあるなどの理由で、長年、茎部分は廃棄されてきた。そこに着目したのが、同県内で辛麺屋を3店舗展開するLogStyleだ。特製しょうゆに漬け込んだ「必然のニラ醤油」を開発・販売し、地元中心に人気を博している。
発端は「まだ食べられるのにもったいない」のひと言
「辛麺」は、宮崎県延岡市が発祥のご当地ラーメンである。ガラスープを中心としたスープに、唐辛子、ニンニク、ニラ、ひき肉、卵などの具材が入っている。麺は、冷麺のような通称こんにゃく麺が使用されており、独特の食感と後を引く辛さがクセになる逸品だ。
その味にほれ込んで、2013年に大分初の「元祖辛麺屋桝元」フランチャイズ店をオープンしたのが、LogStyle社長の時松秀豊史(ひでふみ)さんだ。すぐに人気店となり、18年には別府市に3店舗目を出店した。そんなある日、時松さんに転機が訪れる。いつものようにニラを刻む様子を見ていたスタッフがこうつぶやいた。「まだ食べられるのにもったいないよ」
「ニラは仕入れたときに茎部分がテープで巻かれているため、その部分は洗浄しにくく、たまにラーメンに異物が混入することがありました。それを避けるためテープの前で切り落として茎部分は捨てていたんですが、スタッフに指摘されるまでは気にも留めていませんでした」と時松さんは当時を振り返る。
廃棄されていたニラの茎部分は、全体の約15%に当たる。ひと月に使用するニラ700㎏のうち、100㎏を捨てていた計算になる。
「ニラは別名マルチビタミン野菜と言われていますが、葉より茎部分の方が栄養価が高く、味もいいんです。それを惜しみなく捨てていたのはもったいなかったと思い直し、有効活用する方法を模索し始めました」
従業員も交えてアイデアを出し合い、試作した末、細かく刻んだニラの茎部分をしょうゆ漬けにした調味料が出来上がった。
製造スタッフを8人雇用退路を断って製造事業に本腰
まずはスタッフの賄いに利用し、ラーメン店内での無料提供も開始した。お客さんの反応も良く、「買って帰りたい」という声に応じて商品化を決めた。ただ、店内で提供するのと外販商品とでは訳が違う。商品製造の知識も経験もなかったため、ニラの殺菌や加工工程のデータを収集し、試行錯誤を重ねた。漬物製造業の許可も取得し、19年11月にラーメン店内で販売を開始する。幅広い料理に合うことから、商品に「必然のニラ醤油」と名付けた。
年が明けてすぐ、地元ローカル局に続いて全国ネットのテレビ番組にも取り上げられ、にわかに注目を浴びるようになる。一方、新型コロナウイルス感染拡大による行動制限などで店の客足が急減。同商品は、店舗での葉の部分の消費量によって原材料の供給が左右されるため、製造や販売にも影響を及ぼした。
「こんなことになるとは予想もしていませんでした。テイクアウトや感染予防対策を講じて地道に店舗営業を続けながら、むしろ外販商品があることはラッキーだと捉えて製造に力を入れました」
矢継ぎ早に、ニラ全体を使った「みんなのニラ醤油」や唐辛子を配合した「辛のニラ醤油」などシリーズ商品をリリースする。21年には新工場を設立し、仕入れ~加工~充填(じゅうてん)~梱包~発送まで行える一貫体制を整えた。
「実は、工場新設を決めた同時期に、退路を断つつもりで製造スタッフを8人雇用したんです。まだ販路もない状態だったので、展示会への出展や、一軒ずつ飛び込みで委託販売をお願いして回りました」
度々テレビに取り上げられたことも手伝い、知名度が上がるにつれて地元の土産物店や道の駅、東京の大手スーパーなどに販路が広がっていく。また、大分商工会議所主催「切り拓けおおいた!勇気あるチャレンジ賞」をはじめとする数々の賞を受賞するなど、大分産のニラ消費拡大の取り組みが評価された。
商品が売れるほど事業拡大と食品ロス削減に
現在、同商品の累計販売数は約9万個で、売り上げは同社事業全体の約14%を占めるまでになった。最近では、大阪のラーメン店や尼崎の居酒屋にも提供するなど、業務用としてのニーズも増えているという。
「ニラ醤油は食べてみないと味の想像がつかない商品です。そういう意味で飲食店への販路拡大は、味を知ってもらういい機会だと捉えています。今後もサンプルをつくって幅広く販路を開拓していきたい」
まだ認知が全国区ではない分、潜在顧客は無限大にいると時松さんは考えている。今後は、広く国内外での展開を視野に入れ、多くの人に食べてもらいたいという。それは同社の事業拡大のみならず、大分産ニラの消費量拡大と食品ロス削減につながっていく。
「自分で言うのもなんですが、私ほどニラの活用を真剣に考えている人間もいないと思います。もともと食品ロス問題から始まった事業ですが、会社が動き、社会が動き、お金が回って成長していくことがサステナブルではないでしょうか」と"ニラ愛"あふれる言葉で締めくくった。
会社データ
社名 : 株式会社LogStyle
所在地 : 大分県大分市松原町1-3-11-102
電話 : 097-578-7309
HP : https://logstyle-oita.com/
代表者 : 時松秀豊史 代表取締役
従業員 : 90人
【大分商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!