東京・新宿区に本社兼工房を構える伊良(いよし)コーラ。代表のコーラ小林さんは、独自に研究を重ねて「世界初のクラフトコーラ専門店」を掲げ、2018年より販売をスタートした。10種類以上の天然スパイスと柑橘(かんきつ)類をブレンドしたクセになる味わいは、これまでのコーラの常識や概念を打ち破り、飲んだ人をたちまちとりこにする大人気商品となっている。
2年半の試行錯誤の末"すごいもの"が完成
「ある日、ネットの英語サイトで100年以上前のコカ・コーラのオリジナルレシピを見つけたんです。私たちはコーラが何からできているのかあまり疑問に思わないまま飲んでいますよね。レシピを見た途端、コーラが何でできているのか、たちまち目からうろこが落ちた気持ちになり、自分でつくってみたくなったんです」と自らを「クラフトコーラ発祥人」と称する代表・コーラ小林さんは事の発端を教えてくれた。
自身もコーラが好きでよく飲んでいたという。カフェインを取ると片頭痛が和らぐという話を聞いたことも理由の一つだ。
自然な流れでコーラづくりに乗り出したのは、小林さんが大手広告代理店に入社した1年目のことだ。レシピに載っていたシナモン、ナツメグ、コリアンダー、レモンピール、ライムピール、コーラの実などをひと通り買ってきて、一緒に煮込んでみた。その後も時間を見つけてはあれこれ試作してみたが、なかなか思った味にはならなかった。
「レシピに載っていた精油(香料)でつくるコーラと、香りの良い生の植物が原料の天然スパイスでつくるコーラでは、材料は同じでも工程が異なります。精油は植物から香り成分のみ抽出して凝縮したエキスなので、天然スパイスを煮込むだけでは精油ほど香りが出ないんです」
精油を抽出する機械を買う資金もなかったため、材料の切り方を変えたり、皮だけを使ったり、乾燥させてみたりと、試行錯誤は2年ほど続いた。さすがに諦めかけた矢先、和漢方職人だった小林さんの祖父が他界した。遺品を整理しながら、工房にあった漢方を調合するための資料や道具を見るうちに、「コーラづくりに使えるのでは」とひらめいた。早速、火入れの工程や煮込む順番を変えてみると、今までと違ったはるかによいものが出来上がった。
「翌日、会社で同僚に飲んでもらったら、『売ってほしい』と言われて、これはすごいものをつくってしまった。世に出して多くの人に飲んでほしいという気持ちがムクムクと湧き上がってきました」
移動販売車で出店500杯を数時間で完売
商品化に向けた行動は速かった。フードトラックで売ることを思いつき、2018年7月、「世界初のクラフトコーラ専門店」を掲げて青山ファーマーズマーケットに出店する。クラフトとは、"職人による手づくり"といった意味だ。厳密にはそれまでもクラフトコーラという言葉自体はあったが、天然のスパイスからつくったものではなかったため、あえてクラフトコーラという概念を打ち出したかったという。
「フードトラックではビニールパウチにコーラシロップを入れ、注文を受けてから炭酸とレモンを入れて提供していました。最初は売れるかどうか心配でしたが、すぐに行列ができて、用意した500杯が数時間で完売しました」
こうして平日は会社員、週末はマーケットに出店という日々が始まった。次第にクラフトコーラの可能性を本格的に感じ、退社した。19年1月、コーラに専念するため株式会社GRAND GIFTを設立。「25年までに、コカ・ペプシ・イヨシといわれる3大ブランドの一つになる」という目標を掲げた。
その後、「持ち帰りたい」という声からヒントを得て、シロップを瓶詰めにした「魔法のシロップ」を商品化。スパイスの異なる2種類のフレーバーをつくり、オンラインショップで販売を開始した。さらに、魔法のシロップを炭酸水で割って瓶詰めした「IYOSHI CRAFT COLA」を発売し、順調に売れ行きを伸ばした。
「工房に併設した総本店に続いて、渋谷にも直営店を出し、この5年間で累計約100万杯を売った計算です。お客さまの声の中で、『子どもに安心して飲ませられる』『子どもの将来の夢にコーラ屋さんが追加された』などが印象に残り、すごく励まされます」
グローバル化を視野に海外でポップアップストアを検討中
今春、新たに「伊良コーラ缶」を発売した。手づくりのため、既存の方法では1回に50l程度しかつくれなかったが、1年間研究してスパイスの抽出方法や火入れのタイミングなど新たな製造法を開発し、ある程度の量の生産が可能になったことで生まれた商品だ。
「従来のシロップより柑橘感が強く、ドライでスパイシーな味わいです」と小林さんは自信をのぞかせる。
伊良コーラの製造過程で生まれるコーラ粕(かす)から調合した入浴剤を使って、本格的なクラフトコーラ風呂が体験できるイベント「イヨシの湯」を開催したり、酒蔵とコラボしてコーラ粕を再利用した酒を製造したりするなど、露出を高めている。発売して間もない「伊良コーラ缶」は、当初用意した3カ月分の在庫が2週間で完売するなど、好調な滑り出しだ。
「創業当時からグローバル化を視野に入れているので、コーラ缶をつくったのもその一環です。今後、海外でポップアップストアの出店を検討していて、現在、候補地としてソウルとウィーンを考えています。それを足掛かりに日本発の飲料で世界に挑戦したい」
3大コーラの一角を成すという目標に向けて、小林さんは着々と前進している。
会社データ
社名 : 株式会社GRAND GIFT
所在地 : 東京都新宿区高田馬場3-44-2
問合せ先 : info@iyoshicola.com
代表者 : 小林隆英 代表取締役
設立 : 2019年
【東京商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
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