香川県高松市にある「メガネのタナカヤ」は、親子三代続く"まちの眼鏡屋"だ。現・代表取締役の川畑里佳さんは、自分のやりたい道に進めと言われ、ソーシャルワーカーとして働いていたが、突然、家業を継ぐことになる。生まれ育った地域とともにあるために、盛り上げ役となり、未来へつなぐ。
事業承継の矛先が突如自分に向けられた
総延長約2.7㎞と日本一距離が長い香川県高松市の高松中央商店街。八つの商店街から形成されており、四国トップクラスの通行量を誇る。その一つ、にぎわいを見せる高松南新町商店街にメガネのタナカヤはある。
「創業は1938年。私の祖父が卸業者として起業しました。父が入社した頃に小売業にシフトして、その中でも売れ行きの良かった眼鏡に特化していったと聞いています。現在は眼鏡と補聴器を軸に、一部ルーペなどの光学機器も扱いつつ事業を展開しています」
そう語るのは代表取締役の川畑里佳さん。2005年、26歳のときに家業に入った。それまで家業を意識せず生きてきたと笑う。
「子どもの頃から『好きな道を進めばいい』と言われて育ち、大学卒業後は医療ソーシャルワーカーになりました。しかし、3年たったある日、突然父から『継いでくれないか』と相談されたのです。後継予定だった人が退社することになり、矛先が私に向けられたというわけです。予想だにしなかった事態に、心底驚きました」
だが、川畑さんは状況を受け入れ、その場で承諾した。
「若かったし、よく分かっていなかったからこその勢いもありました。それに小さい頃から父が真摯(しんし)に仕事に向き合う姿を見てきましたし、お店のスタッフとも顔なじみです。私が大学まで行かせてもらえたのも家業があったからこそ。眼鏡屋の娘としてのアイデンティティーとでもいいましょうか、継がない選択肢は考えられませんでした」
父の義晴さんは、社内承継を考えたこともあったようだが、できれば身内に継いでほしいという思いが川畑さんには透けて見えていた。
先代から受け継いだ社員を「信じる」姿勢
異業種からの転向となるため、眼鏡業界のことも経営のこともゼロからのスタートとなる川畑さんは、入社して最初に経理を担当することにした。
「社歴も年齢も私が一番下なので、眼鏡に関する奥深い専門知識や技術の差は埋められるものではありません。そこは経験豊富なスタッフたちを信頼して任せ、私はまず数字を読めるように努めました。そこから少しずつ眼鏡についても学び、今も勉強中です」と語る。
先代を「仕事人間だった」と評するが、家庭を顧みないタイプではなく親子関係は総じて良好。入社後も川畑さんの提案を肯定し、川畑さんもまた、お客さまに感謝し社員を大切にする先代の経営姿勢に倣った。だが、家業入りと同様、社長就任も突然だった。12年3月31日、先代は急逝した。
「病気の進行が早く、あっという間でした。本人も退院する気でいましたから引き継ぎらしい引き継ぎもないまま、4月1日に私が社長就任となりました。暗中模索の中で取り組んだのは、父が生前に希望していた社名変更です。『タナカヤ』から『メガネのタナカヤ』にし、『メガネ屋』をより明確に打ち出しました」
先代の事業理念である「人生は奉仕なり 商いは奉仕への道なり」を踏襲し、全国展開する均一低価格の眼鏡チェーン店とは一線を画し、地域密着型の専門店として顧客の立場に立った対面販売を重視する店づくりを心掛けた。
SNSで認知度を上げ40代以上の客層に注力
さらに認知度アップを目指して数年前からホームページの開設、SNSの活用にも努める。
「SNSはビジュアルメインのインスタグラムに特化して、原則1日1投稿するようにしています。投稿写真の既視感が、再訪のしやすさや、新規のお客さまの来店につながるためです。また、フォロワーのリアクションが励みになって社内のデジタルアレルギーが緩和する効果もありました」
地道な努力で高松エリアの眼鏡店のフォロワー数ナンバーワン、遠近両用眼鏡の累計販売本数は地域トップクラスを記録する。「40歳からの眼鏡づくりはメガネのタナカヤへ」というキャッチコピーを掲げ、ターゲット層を明確にしたことも功を奏した。
「コロナ禍で売り上げが6割減になった月もありましたが、それはお客さまと丁寧に向き合う大切さや、地域密着型専門店としての存在価値を見直すきっかけになりました。今は2店舗を本店に集約し、コロナ前の店舗売り上げ水準の20%アップまで回復してきています」
楽観できない状況だというが、今も100年後の遠い未来も「高松のメガネ屋」として地域とともにあり続けたいと考える川畑さんは、自ら進んで高松商工会議所の議員や香川県倫理法人会副幹事長を務める。また、地域の盛り上げ役になることにも積極的に挑戦している。
先代からの社員全員を引き継いだ社長就任から11年。人を思いやり、地域に寄り添うことを大切にしてきた80年以上続くメガネのタナカヤの歴史を、100年先に向けてさらに広く深く高松に根付かせようとしている。
会社データ
社名 : 株式会社メガネのタナカヤ
所在地 : 香川県高松市南新町3-1
電話 : 087-834-3734
HP : https://tanakaya.jp/
代表者 : 川畑里佳 代表取締役
従業員 : 8人(パート含む)
【高松商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
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