就労継続支援サービスを提供するワークハウスは、設立2年目に創業者が急逝し、急きょ次男の嶋田祐介さんが二代目を継いだ。就労継続支援A型・B型だけではなく、農業やカフェレストランの運営、M&Aによる老舗和菓子店の事業承継をするなど新分野に乗り出し、地域企業としての存在価値を高めている。
父親の思いを継いで「IT」から「福祉」へ
ワークハウスが創業したのは2013年。県立病院の看護師だった嶋田忠次さんが、障がい者向け就労継続支援B型施設での勤務を経て、立ち上げた事業所だ。就労継続支援には、就労者が雇用契約を結ぶ「A型」と結ばない「B型」があり、A型を目的に開業したという。だが、設立2年後に心筋梗塞により急逝。2日前には社員を囲んで食事会が開かれたほど元気だったそうで、社員も親族もまさかの出来事に呆然(ぼうぜん)とした。 「僕が小学生の頃に両親が離婚して以降、父と暮らしていないので健康状態は正直分かりませんでした。まだ60歳手前のことだったのでとても驚きました」と後を継いだ代表取締役の嶋田祐介さんは振り返る。自身は高校を卒業後、会社勤務を経て、21歳で起業。運転代行や貿易などの企業経営の経験を生かし、IT会社設立を考えていたという。
父と最後に会ったのは兄と3人での会食で、その際に事業承継の話を振られた。以前から打診されていたものの、嶋田さんはIT会社設立、兄は就職先での勤務継続を希望し、意見が合わないまま別れた。それが胸に引っかかり、社内の第三者承継も難しいと分かると「このままでは父がやってきたことが何も残らない」と判断し、事業承継に名乗りを上げた。15年、二代目で30歳の社長の誕生だ。だが、順風満帆のスタートではなかった。 「財務状況も分からないまま就任しましたが、状況は想像以上に悪く、就任1年目は給料0円スタートでした」と苦笑いする。
障がいの有無にかかわらず可能性にふたをしない
福祉の業界とは無縁だった嶋田さんは、まずワークハウスの就労者との交流を図った。「父の経営方針や福祉業界の情報収集よりも、まず自らの経験値を上げていこうと思いました。これまで障がいのある人との接点がなかったこともあって、正直ネガティブなイメージや不安がありました。でも、一緒に作業してみると、道具のある場所を親切に教えてくれたり、僕よりはるかにテキパキと仕事をこなされたり、イメージとまるで違いました。勝手につくり上げていた〝障がい〟という壁が崩れましたね」
そして、嶋田さんが経営体制を確立すべく、新たに掲げた企業理念が「壁を壊す」だ。自戒の念と、ワークハウスの社員も就労者も、誰もが長所を生かせる仕事ができるようにという強い思いが込められている。 「先代の経営は社会福祉法人に近い感覚で行っていたため採算が取れておらず、民間企業としてどう収益を上げるかが課題でした」
だが、嶋田さんは収益ありきではうまくいかないと考える。きっかけになった出来事が、車の板金塗装会社の就労支援だった。事業所としては高い収益を得られたが、就労者から「大変」「できない」という声が噴出した。この経験から就労者一人一人の障がいの程度や心身の状態、環境の変化など、より細やかに対応するようになったという。就労者目線で「仕事が楽しい」と感じられる就労体制の提案、提供を図る。すると就労継続支援A型だけではなく、A型支援のサポートや雇用契約を結ばない軽作業を望む人のためにもB型支援の必要性を感じ、A型・B型両方をカバーする事業所になっていった。
M&Aで和菓子の老舗がグループ会社に仲間入り
さらに転機になったのが18年、創業100年以上の和菓子の老舗「恵比寿堂」の事業承継だ。ワークハウス運営の施設利用者の増加に伴い、社会ニーズと利用者の「できること」のマッチングを図る中、地元の信用金庫から福井商工会議所の事業引継ぎ支援センターを紹介される。実際に恵比寿堂を訪ねてみると、同行した就労希望者の一人が「ここで働いてみたい」と口にした。それが決め手となり、本格的な交渉を進めて契約に至る。恵比寿堂の従業員も取引先も継続し、「えびす堂」に改名してグループ会社とした。このM&Aが話題となり、JA喜ね舎と共同で地元野菜を使ったカフェレストランの運営、野菜や米づくり事業、不動産事業など、事業内容が広がっていく。就任時から売り上げは約10倍、純利益約20倍の成長を果たした。 「事業拡大というより、今、目の前にいる利用者の『できること』の選択肢を広げ、地域のニーズに応えていく。その積み重ねです。10年後20年後……100年後と続けるには無理は禁物。僕自身、無理せず、楽しいと思うことだけやろうと決めてから不思議と事業が好転し、恵比寿堂さんやJAさんなどとの出会いを通じて事業が広がりました。先代と違う経営スタイルですが、福祉を軸に社会貢献したいという思いは同じです。この思いを代々つなげていきたいです」と嶋田さん。企業として大事なものは「手法」ではなく「思い」。ほかの事業所のまねも比較もせず、自分を軸に福祉の本質を追究したいと強く語った。
会社データ
社 名 有限会社ワークハウス
所在地 福井県福井市松本1丁目56番5号
電 話 0776-50-7483
代表者 嶋田祐介 代表取締役
従業員 46人
【福井商工会議所】
※月刊石垣2023年9月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!