人手不足は中小・地域企業の切実な課題だ。給与面や待遇面を改善しても人が集まらないといった経営者の声も聞かれる。同規模ながら、人材確保に成功し業績を上げている会社は何が違うのか。
女性が働きやすい職場環境を整備遠隔システムで現場も支援
熊本県南部の水俣市にある立尾電設は、1970年に消防用機器販売の個人商店として創業し、現在は消防設備だけでなく、電気工事、管工事、電気通信工事、保守管理などの事業を行っている。工事業界における従業員の高齢化と人手不足が進む中、同社は働き方改革や業務におけるITの導入、新しい事業への参入などに取り組み、男女を問わず若手からシニアまで幅広い人材を確保している。
働き方改革に対応するため社員に勉強の重要性を伝える
立尾電設を率いているのは、2代目で社長の永田士朗さんである。 「私は東京や熊本市で働いた後、1997年に父の会社に入社しました。当時の従業員は12人で、何もかもが手書きでしたが、これから絶対にデジタル化が必須になると思い、今では当たり前のCADを導入し、積算業務もパソコンでつくることを、まず私一人で始めました。それを進めていくうちに、これから事業を拡大していくには、人を増やさないといけないという発想に至りました」
父である社長には固定費が増えるからと反対されたものの、永田さんはそれを振り切って社員を少しずつ増やしていった。その結果、売り上げも上がった。それは今から15年ほど前のことで、景気が悪いといいながらも、地方でも仕事も人手もまだあった。しかし、永田さんが社長を継ぐ2017年頃から、建設業の人手不足が顕著になり、働き方改革の波も押し寄せてきた。 「この働き方改革は、働く人に厳しい制度だなというのが最初の認識でした。働く時間を短くしながら生産性も上げなければいけない。これまでのやり方でも仕事を進められた人たちが、さらに高度な技術や新たな能力を持つことが求められるわけですから。それでも、経営者としては取り組んでいかなければなりません。社員たちには、働く時間が減って給料が上がるという、働き方改革のいい面だけを見ないで、これからは勉強もしなければいけないことを伝えていきました」
それから永田さんは、働き方改革への取り組みを進めていった。 周囲の同業者などの経営者の話を聞くと、どこも若者の建設業離れが悩みの種となっていた。若手が入ってこないし、入ってきてもすぐに辞めてしまう。その問題を探っていくと、どこの会社も基本給が安く、残業代で稼ぐという、以前と変わらない給料体系がほとんどだった。
建設業界の中小企業を“映え”させる
「能力に見合った給料を支払うためには、働き方改革を進めていかなければなりません。しかし、スキルを上げればこれだけ給料が上がると言っても、みんな進んでスキルを上げようとはしないんです。この点は非常に悩みました」
そこで永田さんは、まずはハラスメント防止や安全対策といった、業務に間接的に関連するセミナーを社員に業務として受けさせた。それにより給料を少しずつ上げていき、セミナー受講でスキルが上がれば給料が上がることを社員に認識させていった。一方、若い人に会社に入社してもらうためには、別の対策を練る必要があった。 「若い人の間で流行しているSNSで“映(ば)え”ることを参考にしました。では、どうしたら当社のような建設業界の中小企業を映えさせることができるか。それを考えたとき、女性が 働きやすい職場環境、活躍しやすい現場の仕事が必要だと。当時、当社には事務職の女性社員が2人いましたが、現場に出る社員はいませんでした。そこで、近隣の高校の進路指導の先生と面談して、消防設備のメンテナンスのような女性が現場で働きやすい職種があるので、それを生徒さんに伝えていただけるようにお願いしました」
するとその年、その高校から新卒で2人の女性が入社した。今から7年前の2016年のことだった。女性社員が現場で働くようになったことで、同社の評判も少しずつ変わっていった。
インターネットを通じて若手を現場でバックアップへ
「建物の消防設備のメンテナンスに女性社員が行くようになると、お客さまから高い評価をいただくようになったんです。特に女子寮のような場所は女性が行った方が住んでいる人も安心ですし、機器の点検だけでなく、汚れている所はきれいにしていくなど、女性社員の方が目配りや気配りが利くんです。その後は人づてに当社の話を聞いて、新卒で1人、中途で1人の女性社員が入社しました。さらに事務職も2人増えて、今は女性社員が全部で8人になります」
社内に女性社員が増えたことで、若手の男性社員も入ってくるようになった。増えた若手社員の現場での作業をバックアップするために、ウエアラブルカメラを装着してもらい、作業の中で分からないことやトラブルがあった際に、インターネットを通じて上司が指示を出せるシステムも新たに導入する。 「会社として若手を引きつける魅力を持つために、新しい技術を導入して、3Dプリンターで住宅をつくるというプロジェクトを始めました。これは兵庫の会社が中心となるコンソーシアムに参加するものです。水俣にもこういう新しい技術に挑戦している会社があることを知ってもらい、これからは若い人が主導権を握って新しいイノベーションを起こして活躍してもらいたいと思っています。また、引きこもりの若者が増えているので、そういった人たちに働ける場を提供して、社会と関わりができるきっかけにできないか、考えているところです」
若い人たちが働きたいと思える会社が地元にあることで、地域からの人材流出防止にもつながる。そういう魅力のある会社にしていくことを同社は目指している。
会社データ
社 名 : 立尾電設株式会社(たておでんせつ)
所在地 : 熊本県水俣市初野75-1
電 話 : 0966-63-4336
HP : https://tateo.co.jp
代表者 : 永田士朗 代表取締役社長
従業員 : 35人
【水俣商工会議所】
※月刊石垣2023年10月号に掲載された記事です。
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