地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化「100年フード」の中から、文化庁、有識者がリレー形式で紹介します。
高知県といえば、国内で流通しているゆずの約半数を出荷する「ゆず大国」。中でも県東部の中芸(ちゅうげい)5町村(奈半利町(なはりちょう)野町・安田町・北川村・馬路村(うまじむら))は、日本を代表するゆずの産地として名高い地域です。そのゆずには、興味深い物語があります。
中芸は、かつて日本有数の林業で栄えた地域でした。特に豊臣秀吉が洛陽の大仏殿の建材に用いた魚梁瀬(やなせ)杉は、全国の良材の中でも特筆されるほどの銘木です。これらの木材は、安田川・奈半利川を経由して河口に運ばれ、全国に出荷されました。この林業を支えるために明治末期から敷設された隧道(ずいどう)や軌道は総延長250㎞にも及び、「魚梁瀬森林鉄道(りんてつ)」として活躍したのです。
しかし1960年代になると、天然林の枯渇や外材輸入などで林業は不振となり、中芸の人々は新たな産業を模索する必要に迫られました。そこで目を付けたのがゆずの栽培です。かつて北川村出身の幕末の志士、中岡慎太郎が自生するゆずに着目し、農民に勧めたことで栽培が始まったという伝承もあります。ゆず栽培の産業化により、りんてつが走っていた中芸の景色はゆず畑へと変わりました。この「森林鉄道から日本一のゆずロードへ」の転換の物語は、文化庁の日本遺産にも認定されています。
ゆずは皿鉢(さわち)料理など多くの郷土料理に使用されています。果汁である柚酢(ゆのす)は酸度が強く、防腐効果や食欲増進の効能があるとされ、高知では一升瓶で流通しているほどです。その柚酢を使った料理の一例に、葉にんにくなどと混ぜたヌタ、酢の物、柚酢を酢飯に使用した「ゆず寿司」があります。ゆずみそ、ゆずこしょう、佃煮、漬物など、ゆずの活用の仕方は誠に多様です。お酒にもゆず酒があります。各家庭や地区で伝承され、現在は、中芸をはじめ高知の代表的食文化として商品化され、地域で受け継がれています。
100年フード
文化庁は、①地域の風土や歴史の中で創意工夫し地域に根差したストーリーを持つ②世代を超えて受け継がれてきた③地域の誇りとして100年を超えて継承することを宣言する団体が存在する、食文化を「100年フード」として認定しています。
100年フード公式ウェブサイト ▶ https://foodculture2021.go.jp/jirei/
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