トラック輸送をはじめ、物流は社会に欠かせないインフラだ。価格の上昇やサービスの低下などで他の産業や消費者にも大きな影響を及ぼす恐れのある、物流の「2024年問題」。働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間が960時間以内に制限されることで発生が予想される、さまざまな問題を指す。持続可能な物流の実現へ何ができるのか、企業はどう対応すべきなのか。
中継輸送、フェリー輸送を強化し人にも環境にも優しい物流へシフト
創業220年以上の歴史ある倉庫・物流会社の鈴与。北海道から九州まで43拠点を有する国内有数の運送ネットワークを構築し、物流の「2024年問題」にも早くから取り組んでいる。積載率の向上、CO2排出量削減など、環境配慮輸送へのシフトを図り、荷主企業の理解、協力を得ながら物流の新体制構築を急ぐ。
中継輸送でドライバーの労働時間や負担を低減
物流の「2024年問題」に対し、鈴与の対応は早い。自社のサイトでもこの問題に対するソリューションを詳しく掲載し、核心を突いた情報発信をしている。「荷主の理解、協力あっての対策」と提言しているが、自社改革も目覚ましい。対策の一つとして15年ほど前から取り組んでいるのが中継輸送だ。鈴与の国内輸送を担当しているのが鈴与カーゴネットで、代表取締役社長の松山典正さんはその点についてこう語る。 「長時間勤務となる長距離輸送において、静岡県内のほか、全国に多数設置した中継拠点と、車体と荷台の切り離しが可能な『スワップボディ車やトレーラー』を活用したスイッチ輸送(中継輸送)を推進しています。ドライバーが交代するリレー輸送と違い、荷台・荷物を交換することで、ドライバー同士の待ち合わせ時間を解消し、運行効率の向上とコンプライアンス運行の両立を可能としています」
物流の「2024年問題」は、人材不足も懸念材料の一つだが、以前からドライバーの担い手は減少傾向にある。その要因は大きく二つ。時間外労働時間の規制強化により労働時間が減少するとともに、報酬額も減少してきたこと、車中泊などにより長期間自宅を離れて稼ぐよりも、その日のうちに帰宅、家族と過ごすことを望むドライバーの増加だ。「時代に合わせた働き方の変化に対して、大型トラック中心の運行から、スイッチ輸送に適したトレーラーへのシフトが功を奏し、ドライバーが働きやすい環境を実現するとともに、1台当たりの積載重量の増加により車両台数が削減されて、CO2の削減にも寄与しています」。また全国のスイッチ輸送の手配を集中管理する「統合配車センター」を本社内に設置し、運行スケジュールから運行状況、道路の渋滞や待機時間の有無などをリアルタイムに把握。輸送DXを構築したことで、実車率を約85%にまで向上させている。このように物流の「2024年問題」とともに、ドライバーの働き方改革や環境負荷の低減など、複数の物流課題を同時に改善しているのである。
陸だけでなく海も活用フェリー輸送に活路あり
中継輸送に加えてもう一つ、鈴与が注力しているのがフェリー輸送だ。同社は海陸一貫輸送サービスを国内全航路で展開しており、年間輸送取扱実績は約6万4000本と業界トップクラスを誇る。トレーラーを活用することで、フェリーに積み込むのはシャーシのみ。陸上輸送と比較して、CO2排出量の40~75%削減が見込まれる。 「荷主企業には、トレーラーを活用したフェリー輸送へのシフトを積極的に提案しています。フェリー輸送の方が鉄道輸送と比較して、自然災害などの影響が出にくく、パレットに積んだ荷物の積載効率も高い。最近はフェリー輸送の中ロット輸送を開始し、取り扱いが増えてきています」(松山さん)
BCP(事業継続計画)対策としてもフェリー輸送の有益性を説き、今後も事業を加速させていきたいと前向きな姿勢をとる。
そのほかにも複数の荷主の商品や商材を積み合わせて効率化を図る共同配送や、多頻度小ロット輸送が多い荷主には納品先近隣への配送拠点(サブデポ)の設置提案など、持続可能な物流サービスを次々に打ち出している。
「2024年問題」は通過点 荷主企業の全面協力は必須
「しかし、物流業界の対策だけでは限界があります」
そう語るのは、鈴与の取締役副社長の髙橋明彦さんだ。国内倉庫面積96万㎡(東京ドーム約20個分)を有する倉庫事業も活発な鈴与は、多種多様な商材を扱っている。その立場から荷主企業の全面協力は必須と説く。物流システムの改善を図っても各業界にある〝業界ルール〟の障壁が立ちはだかる。 「例えば、食品業界には食品問屋特有の納品条件があり、ドライバーの積卸作業の負担や伝票の電子化の遅れなどがボトルネックになっています。食品業界に限らず待機時間が1時間以上あったり、荷主企業の業務である荷役をドライバーが無償で行ったりなど、慣習となっている物流会社の負担はいろいろあります」
だが、食品業界と同様に共同配送が多い日用雑貨業界は、伝票レス化など、商品を受け取る着荷主である問屋主導の業界改革が進んでいるという。さらに、荷主企業を交えた異業種連携による共同運行を企画し車両台数の削減とCO2削減の取り組みが加速。同社は、荷主企業他7社とともに令和4年度グリーン物流パートナーシップ優良事業者表彰で、最高位の国土交通大臣賞を共同受賞。23年7月には第24回物流環境大賞特別賞を受賞するなど、これまでの取り組みが評価されたことで、物流会社からは要求しにくい荷主企業の意識改革の促進につなげている。
一方で物量の増加とコンプライアンス運行の板挟みで、物流会社が荷主企業を選ばざるを得ない逆転現象が起こり得るとも髙橋さんは語る。 「『2024年問題』は通過点に過ぎません。物流に関わる全業界と連携した物流サービスの再構築は始まったばかり」と24年より先を見据え、社会インフラを支え続ける。
会社データ
社 名 : 鈴与株式会社(すずよ)
所在地 : 静岡県静岡市清水区入船町11-1
電 話 : 054-354-3041
代表者 : 鈴木健一郎 代表取締役社長
従業員 : 974人(グループ会社含めて約1万2800人)
【静岡商工会議所】
※月刊石垣2023年12月号に掲載された記事です。
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